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2012/04/16

スマートなチップの渡し方

イタリアのバールで働いていて、日本から来るお客様から様々な質問を受けます。
その中で最もよく訊ねられることが、「チップはどうしたらいいか?」

「義務ではなくお気持ちなので」と言うと、皆さんとても安心して、チップを置いていきません。
日本文化を知る私個人としては感謝の一言だけで充分嬉しいのですが、ここではイタリアで
他のバールやリストランテを利用するときに戸惑わないよう、チップのシステムについて
少しお話ししてみようと思います。


そもそもチップとは何なのか?
感謝の気持ちを少しばかりのお金で表すことは、欧米社会ではとても自然なこと。
「感謝」と言うと曖昧になりますが、プロの技術・もてなしに対する「敬意」に近いニュアンスです。
「自身の満足度」と考えるより、「プロのサービスへの対価」だと言えば分かりやすいでしょう。

居心地良く楽しく食事ができることが普通ですから、もしチップを置いていかなければ、
「何か不手際があったのか?」と解釈されるでしょう。
チップ制度が前提の社会なので、現実的に店員の収入にも大きく影響してきます。

歴史や文化の根本から違うこの価値観を、日本の感覚で理解することは難しいのですが、
例えば日本でも、旅館の仲居さんに手渡す「心付け」に近い感覚だと思えば、どうでしょうか?
滞在中の担当として丁寧な仕事でお世話になり、さらに親身になって観光の相談にも乗って
もらえば、包む額も弾みたくなるものですよね!

* * *

とはいえ、ヨーロッパの感覚では(事実は別として率直な意見として)、アメリカのチップ文化は
働く人になら何でもばら撒いているような行き過ぎたものに映るといいます。
そのヨーロッパの中でも、イタリアはそれほどチップ制度が徹底しているわけではありません。
特に「専門技術」「特別待遇」に感動したとき、イタリア人は快くチップを置く傾向があるでしょう。
それ以外にチップを置かなかったとしても、マナー違反とまではなりません。

具体的には、丁寧に料理の説明を受けたり、特別メニューを頼んだり、写真を撮ってもらったり、
観光地のアドバイスを訊ねたりと、カメリエーレ(給仕)に通常の食事以上のサービスを受けた
場合は、必ずチップを渡すようにした方がいいと思います。
料理の味にも満足し、素敵な時間を過ごせたなら、やはりチップを置いた方がいいでしょう。


お店によっても異なりますが、テーブルを担当したカメリエーレがチップ全額を受け取る場合と、
後でコックも含めた従業員全員で分ける場合があります。
後者である場合を考えて、他の店員に見えないようにカメリエーレにチップを渡すお客様も
多くいらっしゃいます。握手をしながらこっそり渡す方も多いですよ!
担当したカメリエーレ個人に対する強い感謝の表れで、非常に喜ばれるひとつの方法ですね。

イタリアでは支払いはテーブルで済ませます。
チップを上乗せした額を渡せばスムーズですし、最後にテーブルに置いて出て行っても
問題ありません。チップを含めてカードで支払うこともできます。
慣れているお客様だと、明細書に「+○○ユーロ」と追記したり、「おつりは○○ユーロで」と
伝えたり、あくまでさりげなく済ませます。
直接手渡す場合は、「グラーツィエ/ありがとう」(Grazie)、「ペル・レイ/あなたに」(Per lei)と
言いながら渡せば自然です。イタリア語でチップを表す「マンチャ」(Mancia)を口にするのは、
やや直接的でスマートではありません。
(※サービス料(Servizio)が会計に含まれている場合は、チップは不要です)

* * *

ところで、ほとんど知られていないことが、バールのカウンターで立ち飲みするときのチップ。
ここでは通常必要ありませんが、チップを置けば喜ばれるでしょう。
カウンターに専用のお皿やグラスを置いているバールもあります。
エスプレッソやカプチーノなら、10セントか20セントのワンコインで充分です。

また、あらかじめチップを置きながら注文すると、ドリンクづくりからバリスタは気合いが入ります。
コーヒーやカクテルなど、最大の集中力と技術でつくった完璧な一杯を提供してくれるはず!
イタリア人の中でも、バールに詳しい通のテクニックです。


最後に、私が受け取った最も感動的なチップをご紹介しておきます。

テラスでランチをとった日本の若いカップルのお客様を担当したときのこと。
帰り際、カウンターで作業をしていた私のところまでわざわざ挨拶に来ていただきました。
そこで女性の方と握手をした際に、私の手の中に、飴玉を2つ残していかれたのです。
よく見ると、そこには日本語で「生梅飴」と書いてありました。
驚いたときには、笑顔で手を振りながら出て行かれる姿を見送ることしかできませんでしたが、
遠く離れた日本の懐かしい味と、「がんばってください」の一言に、涙が出る思いでした。


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バリスタの選び方


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