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2012/05/31

カフェ・コレット

日本のイタリアンバールでもお馴染みの、カフェ・コレット。
エスプレッソに少量のアルコールを注いだコーヒーです。

イタリア語の発音では、カフェ・コッレット(Caffè Corretto)に近いですが、日本語の感覚では
やや言いづらいですね。
「正す、訂正する、味を良くする」といった意味で、「(アルコールを)加味したエスプレッソ」と
いうニュアンスです。

日本では、「グラッパ入りエスプレッソ」と訳されることが多いのですが、加えるアルコールは
それだけとは限りません。
グラッパと同じ蒸留酒のブランデーやコニャック、イタリア産ビター系リキュールのアマーロ、
アニス酒のサンブーカは、いずれもポピュラー。

食後のエスプレッソに、アルコール度の高い食後酒を加えることで、消化を助ける働きが
あります。
ランチやディナーの後や、特に冬の寒い日では午後の一杯としてもよく飲まれます。

日本ではむしろ、スウィート系リキュールを加えるメニューが一般的ですが、これは苦味が
苦手な日本人向けアレンジだといえます。
アマレット(アーモンド)、ベイリーズ(ウィスキー&クリーム)、カルーア(コーヒー・クリーム)、
フランジェリコ(ヘーゼルナッツ)、コアントロー(オレンジの果皮)など。

こうした観点から見れば、アプリコット・ブランデーやクレーム・ド・カカオ、チョコレートや
ピーチなどのリキュールもよく合うのでは…?

メニューに載っていなくてもカウンターに並ぶボトルで選べれば、それは間違いなく
イタリア流のバールの楽しみ方。
オリジナリティ溢れるアイデアで、自分好みのカフェ・コレットを注文してみてくださいね!

Caffè Corretto

【関連バックナンバー】
イタリアの薬用酒・アマーロ
漁師のコーヒー


2012/05/30

イタリアのリキュール・カンパリ

イタリアのバールのカウンターには、色とりどりのリキュールやスピリッツ(蒸留酒)のボトルが
たくさん並んでいます。
レアなボトルを見つけたりと、眺めているだけでも楽しいのですが、ではその中で一番人気の
あるボトルは何でしょう?

答えは「カンパリ」。
イタリアが世界に誇るリキュールで、その鮮やかな赤色と爽やかなほろ苦さが特徴です。


バールでの消費量は他のボトルを圧倒していて、バリスタとしては、在庫管理と発注において
まずチェックするボトルでもあります。

一番人気といっても、それは消費量の話。カンパリ単体で飲まれることは、ほとんどありません。
例えば「カンパリ」と注文すれば、「カンパリソーダ」のことだと理解されるでしょう。
1930年代に発売されたカンパリソーダの小瓶は、そのデザインも変わらず愛されています。
カンパリソーダには、お好みで氷やオレンジスライスを入れてもらいましょう。
これに少量のジンを加えるのもポピュラー。

ボトルのカンパリ・リキュールを注文する際は、「ビッテル・カンパリ」(Bitter Campari)と言って
みてください。
白ワインやスプマンテに少量のカンパリを注ぐ注文も非常に多く、アペリティーヴォ(食前酒)に
ふさわしい華やかさを演出してくれます。

こうしたカジュアルな飲み方の他、やはりカクテルの材料として有名ですね。
イタリアでは、「アメリカーノ」と「ネグローニ」が大人気!
近年流行している「アペロール・スプリッツ」も、アぺロールに代えてカンパリを使う注文が
増えています。

日本で人気の「カンパリオレンジ」は実はそれほど注文は多くなく、「スプモーニ」に至っては、
その存在すら知られていないのが不思議ですが…。

Campari Soda

イタリアのバールはもとより、世界中で大人気のカンパリ。
その誕生はイタリア北部、ミラノ近郊の町・ノヴァーラでした。

この町でバールを経営していたガスパーレ・カンパリ氏(Gaspare Campari)が、「ローザ・カンパリ」
(Rosa Campari)と呼んだ新しいリキュールを開発します。
これが現在のカンパリで、レシピは当時とまったく変わっていません。
様々な野草、香草、果実を抽出したものですが、製法は秘伝として明かされていないため、
原材料は20種類と言う人もいれば、60種類と言う人もいるようです。

その新商品を売り出すべく、1860年、ガスパーレ氏はミラノ社交界の中心・ガッレリアに、
「カフェ・カンパリ」をオープンさせます。
カンパリはアペリティーヴォの主役として、瞬く間にミラノ市民に大評判になったといいます。

息子のダヴィデ・カンパリ氏(Davide Campari)が2代目を継ぎ、ビジネスに長けた彼の戦略のもと、
世界的な酒造メーカーとして大きな発展を遂げました。

カンパリは現在、世界190ヶ国以上で販売されていて、他の様々な銘柄もグループ傘下に
収めています。
チンザーノ(ヴェルモット)、チナール(アマーロ)、アペロール、フランジェリコ(ともにリキュール)、
SKYY(ウォッカ)、ワイルド・ターキー(バーボン・ウィスキー)などは、耳にしたこともあるのでは
ないでしょうか。

Bitter Campari

ミラネーゼ(ミラノっ子)の誇りであるカンパリは、今では「イタリアの情熱の赤」に形容され、
世界中でその輝きを増しています。

"CAMPARI"の"R"を取れば…、"カンパイ(乾杯)"ですね!
そんなシャレでイタリア人に日本語を教えつつ、今日もカンパリのグラスには友人の笑顔が
映っています。


カンパリ社・公式サイト(イタリア語・英語・ドイツ語)
http://www.campari.com/


【関連バックナンバー】
ネグローニ伯爵のカクテル
食前酒・アペリティーヴォ…って何?
宵のいざない・ヴェルモット
イタリアの薬用酒・アマーロ


2012/05/24

ドルチェの新潮流

トスカーナのワイン産地を巡る旅でもお馴染みの、マッシミリアーノ・フェッリ氏が、今回は
現在フィレンツェで最も注目されているパスティッチェリーア(菓子店)を紹介してくれました。

* * * * * * *

「ドルチ・エ・ドルチェッツェ」
フィレンツェの中心・歴史地区からやや離れた場所にある、フィレンツェっ子御用達のお店。

内装はアール・ヌーヴォー様式で、フランスやベルギー風の雰囲気。
淡いミント色の色調で統一され、「お菓子箱」のような可愛らしさで溢れています。
店内は約5メートル四方とコンパクトですが、天井が高いために狭さを感じさせず、スッキリした
印象。シャンデリアがとても優雅です。

左右に向かい合うカウンターにはショーケースが置かれ、まるで宝石のようなお菓子がシンプルに
並べられていました。
その小さなカウンターに立つお客さんが、上品にお菓子を口に運んでいました。
バールというよりは、ドルチェのアトリエといった趣きです。


私たちを迎えてくれたのは、オーナーのジュリオ・コルティ氏の美しい愛娘・アンジェリカさん。
とても丁寧な説明で、お店に並んだお菓子をひとつひとつ紹介してくれました。


ジュリオ氏は、元々フォトグラファーだったといい、自宅で研究を重ねて完成させたドルチェは、
これまでのイタリアの伝統製法を覆す革新的なもので、その味は驚きそのもの!
アンジェリカさんが、「父は家でも料理がとても上手だった」と話してくれました。

私が頼んだレモンのタルトは、ヴァニラ・クリームの柔らかい味に、シロップ漬けのレモンピール
の酸味がほんのり香り、一口サイズのタルトの中に壮大な調和を生み出していました。
チーズケーキ(Cheesecake)やラズベリーのタルト(Tortina ai Lampone)なども同様に、
その繊細でまろやかな風味は、まさに「甘美」という言葉がピッタリ。


アンジェリカさんが、この日のおすすめ、リンゴのタルト(Torta di Mele)を味見させてくれました。
ブラウンシュガーの上に薄くスライスしたリンゴを幾層にも重ね、ハチミツを塗ってオーブンで
焼いたというシンプルなもの。
焼く前のタルトをわざわざキッチンから持ってきて見せてくれるなど、親切に説明してくれました。

小麦粉を一切使用していないため、リンゴの自然の甘味が口いっぱいに広がり、素材の味を
見事なまでに堪能できる逸品。
素材をミルフィーユ状に重ねた独特の食感は贅沢で、各層の間から果汁が溢れ出てきます。
上からかけた自家製クリームも、これほどデリケートなものは唯一無二といってもいいでしょう。


最後にテイクアウトしたのが、お店のシンボル、ビター・チョコレート・ケーキ(Torta al Cioccolato)。
高さ2cmほどの平たいシンプルさが特徴的で、ビター・チョコレートとパウダーシュガーの色の
コントラストがとても美しく、浮き立たせた店名にオリジナルが表れています。
キャンディのような可愛らしい包装も個性的。

食感は非常にやわらかく、しっとり。
こちらも小麦粉を使用していないので、ビター・チョコレートの濃縮された味わいそのもの。
これほど上質な味に向き合うとき、量で満足させる必要はまったくない、とあらためて実感します。
一口ごとに、時を止めて甘美の世界にいざなう味は、もはや魔法ともいうべき…。


いずれも共通しているのは、「よりシンプルな材料で、素材の味をより引き出す」という
イタリア料理にも通じる信念。
繊細な味に、丹念に手を掛けた製造工程が垣間見えますが、フランス菓子的ともいえるその
洗練されたクオリティの中にも、こうしたイタリアの味覚への美意識を感じることができます。


さて、このお店では、非常に美味しいエスプレッソ・コーヒーも飲むことができます。
エスプレッソマシンは一見では目につかないカウンターの奥に置かれていますが、
フィレンツェで最も評価の高い焙煎メーカー&バール「ピアンサ」(Caffetteria Piansa)から
卸された豆を使用。
香ばしく深みのあるエスプレッソは、ドルチェの余韻を完成させる、最後の一杯にどうぞ!


「ドルチ・エ・ドルチェッツェ」
"Dolci e Dolcezze" / Piazza Beccaria 8r


【関連バックナンバー】
トスカーナ・ワイン街道(1) - モンテプルチャーノ
トスカーナ・ワイン街道(2) - モンタルチーノ


2012/05/14

フィレンツェ郷土料理店

先日、同じ夜に2人の友人がフィレンツェを訪れ、それぞれを紹介する形で会食をしました。
ニューヨーク在住の日本人画家と、ウィーンのEU機関に勤めるルクセンブルク人。

生まれも、居住地も、仕事もまったく異なる3人による、多方面の意見交換も目的でしたが、
せっかくなので、この機会に伝統的なフィレンツェ郷土料理を紹介することにしました。
そこで、かねてから注目していた老舗リストランテ「レ・フォンティチーネ」(Le Fonticine)で
待ち合わせることにしました。


アペニン山脈裾野の盆地に広がるフィレンツェの料理といえば、まず肉料理です。
各種ビーフステーキや、野ウサギ、イノシシ、シカなどの野趣溢れるジビエ料理が有名。
一方で、豆料理も代表的で、野菜を多用した農家の素朴な家庭料理が多いのも特徴です。

その中でも、倹約家といわれるフィレンツェ人気質を表すように、安い食材や残り物を使った
「クチーナ・ポーヴェラ」(Cucina Povera)と呼ばれる庶民料理の幅広さは特筆すべきところ。

この日は軽めの夕食にしたかったので、このクチーナ・ポーヴェラを注文することにしました。

* * * * * * *

第一の皿:「リボッリータ」
フィレンツェのクチーナ・ポーヴェラの代表的な一皿です。
余った野菜スープ(ミネストローネ)に、そのまま食べるには固くなり過ぎたパンを入れて、
料理名の意味通り「再び煮込んだ」もの。

もちろんリストランテですから、余り物を出すことはなく、各素材のエッセンスが上品に調和をとる、
実にデリケートな味わいでした。

タマネギ、ニンジン、セロリといった香味野菜に、黒キャベツ、ちりめんキャベツ、ビートなどの
青菜やインゲンマメが入って、栄養も満点。トマトピューレの爽やかな酸味も効いています。
パンを加えて煮込むため、汁気のないスープになるのがポイントです。

カメリエーレ(給仕)が目の前でパルミジャーノ・チーズを削ってくれ、トスカーナ産のオリーブオイル
をかけてくれました。これで風味がぐっと引き立つわけです。

Ribollita Contadina

第二の皿:「フィレンツェ風トリッパの煮込み」
トリッパとは、牛の第二胃袋のことで、日本ではハチノスと呼ばれているもの。
イタリア各地で食されますが、特にフィレンツェのトリッパ料理は有名です。
下茹でしたトリッパを香味野菜のブイヨンとトマトで煮込み、パルミジャーノ・チーズ、黒コショウ、
オリーブオイルをかけて、いただきます。

Trippa alla Fiorentina

食後、カメリエーレに頼んで、ワインセラーを特別に見せてもらいました。
オーナーのシルヴァーノ・ブルーチ氏が、丁寧にワインを説明しながら、1959年の創業以来
53年間の歴史についても語ってくれました。
町の多くの美術品に大損害を与えた1966年のアルノ川の氾濫では、このリストランテも甚大な
被害を受け、それでも苦労の末に再生したといいます。



このリストランテの名物は、フィレンツェ料理の代名詞「フィレンツェ風Tボーンステーキ」だと
いうことです。
大きな暖炉のようなつくりの炭焼きグリルで豪快に焼かれたステーキが、次々と各テーブルに
運ばれ、カメリエーレが目の前で切り分けていました。

Bistecca alla Fiorentina

まるで美術館にいるかのように壁面を絵画で埋めた店内は、フォーマルな雰囲気ながら、
家庭的な温かいサービスが心を和ませます。
素朴なフィレンツェ料理を、限りなく上質に高めた繊細な味は秀逸。
隠れ家的な一軒として、すっかり気に入ってしまいました。



リストランテ「レ・フォンティチーネ」
Ristorante "Le Fonticine" / Via Nazionale 79r - Firenze
http://www.lefonticine.com/italiano/iindex.htm(イタリア語・英語)


【関連バックナンバー】
アグリトゥーリズモ料理
リグーリア郷土料理づくし


2012/05/12

鉄板焼きパニーノ

先日、イタリア・プロサッカーリーグ“セリエA”の試合を、スタジアムで観戦してきました。
青空のもと、何万人という観衆の熱気を感じる解放感は、ファンでなくても楽しめるもの。
しかし、私がスタジアムに行く楽しみはもうひとつ。ここに珍しいパニーノがあるからです!

パニーノといえば、イタリアのバールや屋台の定番ファーストフードですね。
通常は、やや固いイタリア風のパンにハムやチーズなどの切り立ての具材を挟んで、
そのまま食べるか、トースターで温めてもらって食べることになります。

一方で、スタジアムの名物は「パニーノ・アッラ・ピアストラ」(Panino alla Piastra)。
鉄板焼きでつくるパニーノです。

焼きそばやお好み焼きをつくるような鉄板の上で、イタリア風ソーセージ・サルシッチャを焼き、
同じく鉄板の上で温めたパンに、タマネギやペペローニなどの炒めた野菜を挟んだもの。
仕上げに、ケチャップ、マヨネーズ、マスタードソースを好みでかけてくれます。

これが珍しい理由は、移動販売車でしか売られていないから。
この移動販売車を見つけるには、サッカースタジアムの他、郊外の広場や公園、青空市などに
行かなければなりません。

「鉄板で焼く煙や臭いが強いため、オープンスペースでしか作れない」という事情があるのでしょう。
もちろん、普通のバールではエスプレッソやワインなどのデリケートな香りの邪魔になるので
絶対に扱っていないし、いわゆるB級グルメのためリストランテにもありません。

特にサッカースタジアムの外で食べる鉄板焼きパニーノは格別です!
サッカーシーズンは秋から春先になるので、真冬の凍える寒さである場合がほとんど。
そこで食べる、温かくガッツリ食べ応えのある味は、サッカー観戦の腹ごしらえにはピッタリです!

観光巡りではなかなかお目にかかれないものですが、飾らない庶民的な味にこそ、
その国の美味しさが詰まっているというもの。ぜひ探してみてくださいね!

Panino alla Piastra

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惣菜屋・ガストロノミア活用法