2012/01/28

ボトルにスプーン?

スプマンテ(スパークリングワイン)のボトル750mlを一人で飲み切れる方は少ないでしょう。
自宅用に買いづらい理由のひとつです。
もし余っても、専用ストッパーを使えば炭酸ガスの放出やワインの酸化をある程度防止でき、
1-2日は美味しさを保ちます。
しかし、もしそれが無いときはどうすればいいのでしょうか…?

イタリアの家庭では、銀製のティースプーンをボトルに挿しておくだけ。
炭酸ガスと銀が化学反応して、ボトル口からガスが抜けにくいと言われています。
シャンパン生産国・フランスでもこの方法は知られていると聞いたことがあり、日本でもこれを
紹介するTV番組を観たことがあります。

しかし、これは迷信だということは今ではハッキリしています。
私も実際に試してみましたが、ティースプーンを挿さない場合と比べても、1-2日後の違いは
感じられませんでした。
むしろラップなどでしっかり包んだ方が、多少の効果はあるかと思います。

驚くべきことは、専門店のバールでも応急処置的にこの方法を使うお店があること。
専用ストッパーが不足した場合などに限りますが、やはり普段からストッパーを常備して
おくべきことです。

イタリアのバールでは、専門知識のないバリスタや利益偏重主義のオーナーがいることは、
残念ながら否定できません。
そこでよくあることが、スプマンテを一杯頼むとき、すでにガスが抜けてしまっていること。
多少ガスが弱いと感じられる場合でも、本来お客様に提供すべきものではありません。
その場合、交換してもらうようすぐに言うことが大切です。
経験の少ないバリスタなら悪気があるわけではなく、単に気づいていないだけの場合も
あるのです。

エレガントで華やかなスプマンテをご自宅でも安心して楽しめるよう、まずは飲み切れる
サイズのハーフボトル(375ml)を選ぶか、専用ストッパーを買っておくことをオススメします。
それでも残ってしまった場合は、サングリアやホットワインにして飲んだり、料理用に使うと
いいでしょう。


【関連バックナンバー】
冬の風物詩・ホットワイン
スプマンテで新年の乾杯!


2012/01/27

青カビの魔法・ゴルゴンゾーラ

ワインのおつまみで、今月の私のお気に入りだったのが、ゴルゴンゾーラ・チーズ(Gorgonzola)。

チーズ大国・イタリアでも、ゴルゴンゾーラはその代表格であり、世界で最も有名な
ブルーチーズのひとつです。
せっかくなので、ゴルゴンゾーラについて少し紹介したいと思います。


発祥は、ミラノ近郊・ゴルゴンゾーラの町。時期は諸説ありますが、9-10世紀頃のこと。
現在では、ミラノを州都とするロンバルディア州、および隣接するピエモンテ州で生産され、
保護原産地呼称DOP (Denominazione di Origine Protetta)に指定された生産地域に限定
されています。

ゴルゴンゾーラは牛乳から作られるチーズですが、最も特徴的なものが、断層状に含まれる
青カビとその独特な香り。
ピリッと辛味のある刺激的な風味は、一度好きになったら病みつきになる味です。


私が重宝している理由は、様々なワインに合わせられるから。
赤・白・ロゼはもちろん、デザートワインやマルサラ酒などにもよく合います。

それでも、ワインに合わせる目安にするには、ゴルゴンゾーラがドルチェ(Dolce)とピッカンテ
(Piccante)の2種類に大別されることを知っておく必要があるでしょう。
熟成期間2ヶ月以上のドルチェはクリーミーで甘味があり、同期間5ヶ月以上のピッカンテは
硬くて辛味が強い、という特徴があります。


そのまま食べても美味しいですが、マスカルポーネ・チーズとクルミを添えるのが伝統的な
食べ方。

ピッツァの具材としても有名ですね。
4種類のチーズをのせた「クアットロ・フォルマッジ」には、必ずゴルゴンゾーラが入ります。
私のオススメは、ゴルゴンゾーラと生ハムをのせたピッツァ。コクがあるのにデリケートな
味わいは、エレガントなディナーにもピッタリ!

野菜ならトマト、セロリ、ペペローニなどに合い、フルーツなら洋ナシ、リンゴ、イチゴなどにも
よく合うでしょう。ハチミツやジャムとも相性抜群です!

この他にも、パスタ、リゾット、肉料理などのソースに幅広く使われ、サラダに入れても
個性的なアクセントをつけてくれるに違いありません。


買ってきたゴルゴンゾーラは、アルミホイルに包んで冷蔵庫に保存し、早めに召し上がって
くださいね。臭いが気になる場合は、タッパーやジップロックなどの密閉容器に入れると
いいでしょう。


ゴルゴンゾーラ協会・公式サイト(イタリア語・英語・仏語・独語・スペイン語)
http://www.gorgonzola.com/

Gorgonzola DOP

2012/01/26

唐辛子入りオリーブオイル

昔から、日本でピザを頼むと必ずタバスコが添えられてきますね。
しかしこれは、アメリカ経由で日本にピザが伝わった名残の習慣。
ピッツァの本場・イタリアでは、(観光客向けを別として)決してタバスコは出されません。

その代わりに置いてあるのが、唐辛子入りのオリーブオイル。
タバスコよりもはるかに美味しい、風味豊かな自然食品です。

ピッツェリアではピッツァと一緒に必ず持ってきてくれるわけではないので(テーブルの
数だけボトルが無いため)、ぜひ頼んで試してみてください。
「オーリオ・ピッカンテ」(Olio piccante)と言えば、持ってきてくれますよ!
辛味がまだ足りなければ、刻んだ唐辛子・ペペロンチーノを持ってきてもらいましょう。

ご自宅でもカンタンにつくることができます。
買ってきたオリーブオイルのボトルに、細かく刻んだ唐辛子を大量に入れて浸けるだけ。
その際、オリーブオイルは必ず、風味に優れたエクストラ・バージン・オイル(Olio extra
vergine di oliva)を使ってください。

ピッツァに限らず、パスタや肉料理、サラダなどにかけても非常に美味しいので、
ご家庭にも常備されることをオススメします!


2012/01/21

ミートソースのピッツァ

日本のデリバリーピザで、特に秋になるとキャンペーンが展開される「ボロネーゼ」という
メニューがありました。
今もきっとあるのでしょう。いわゆる、ボローニャ風ミートソースをのせたピザのこと。



イタリアでの生活も数年が経ち、リストランテ兼ピッツェリアで働いていたある日のこと。
同僚のピッツァ職人と話すなかで、ふとこのことを思い出し、今さらながらイタリアにはこの
メニューが存在しないことに気づき、愕然としました。

そこで後日、まかない料理で、彼にお願いして自分だけのためにミートソースのピッツァを
試作してもらいました。
これが実に美味…!
伝統レシピで煮込んだミートソースと、完璧に発酵した本場のピッツァ生地の、初めての食感。
日本のそれをはるかに超える、上品かつ繊細な本格料理に仕上がったのです!

それでも完全なマッチングにはもう一工夫必要だと感じ、後日、ミートソースの量を少し減らし、
ナスのグリル焼きをのせて試したところ、申し分ないほど完全な調和が生まれました。

ところが、これを見た他のイタリア人カメリエーラ(ウェイトレス)たちから、苦々しい顔で
「キモチわるい!悪趣味!」と非難の嵐…。
特にピッツァの本場ナポリ出身のシェフが言った「オマエはイタリア料理を汚した!」との言葉は、
イタリア人特有のいつもの大げさな表現とはいえ、彼の本心そのものだったと思います。
「ピッツァに使うなら、オレのミートソースは渡さない」と言い張る彼をなだめるのに苦労しました…。



イタリア人からしてみれば、ピッツァにミートソースなど絶対にありえない組み合わせで、
先人たちが築き上げてきたイタリア料理への敬意を甚だしく欠いているというわけです。

このとき、日本生まれの寿司の、世界での普及と発展が頭をよぎりました。
伝統的な江戸前寿司の老舗ではいまだに扱わない、サーモンの握りやカリフォルニアロール
などは、世界中で最も人気のあるSUSHIメニュー。
日本でも大人気の回転寿司は、それ以上にアレンジされた寿司で目白押しです。

しかし、イタリア国内は自国の食文化に関して、日本以上に保守的です。
アメリカ系デリバリーピザ店が続々開発する新メニューは、歴史も文化もないアメリカ人の暴挙、
としか見なさないのです。



試作してくれた同僚のピッツァ職人は、南部カラブリア州出身のイタリア人ですが、
実は約20年間ドイツでイタリアンレストランを経営していました。
そのお店で、同国で人気だというミートソースのピッツァを扱っていたのです!
同僚であること以上に、だからこそ快く私に作ってくれたのですが、ほとんどのイタリア人
ピッツァ職人は、頼んでも作ってくれないでしょう。

しかし、それでも注文してみたいという方は、必ずリストランテを併設するピッツェリアで
頼むことです。リストランテなら自家製のミートソースは必ず仕込んであるものですが、
ピッツァ専門店では絶対に扱っていません。
そして注文の際のコツは、最初にピッツァ職人に直接尋ねること。
カメリエーレ(ウェイター)に頼んでも、まず聞き入れてくれないでしょう。



ボローニャはおろか、イタリアには絶対に存在しない、ピッツァ・ボロネーゼ…。
先日、今も彼が働くそのお店を訪ね、久しぶりに作ってもらいました。
15年前イタリアに憧れて食べていた、あの無垢な情熱を思い出させる懐かしい味は、
今ではなんだか本格的過ぎて、陽気なだけではないイタリア生活のほろ苦さも少し、
混じったような気がしました。

Pizza Bolognese

2012/01/17

惣菜屋・ガストロノミア活用法

イタリアには街のあちこちに惣菜屋・ガストロノミア(Gastronomia)があります。
ショーケースには、すでに調理済みの惣菜やソース、たくさんの種類のチーズ、オリーブ、
サラミ、ハム、生パスタなどが並んでいて、量り売りで買うことができます。

私はワインに合う前菜をよく買っていきますが、特にここでしか買わないものは、サラミ・ハム類。
これらは切りたてが何より美味しく、立ち昇る芳香と柔らかい食感は言葉を失うほど!
スーパーで売っているスライス済みのパックは、決して買う気にはなりません。

私のガストロノミア活用法のもうひとつは、その場でパニーノをつくってもらうこと。
パニーノのメニューは一切ありませんが、裏にはパンも必ず置いてあるものです。
切りたてのサラミやハムと好みのチーズを挟んでもらったり、そこにソースをかけてもらったり、
ショーケースを見ながら自由自在に注文できるのです!


ある日のフィレンツェのガストロノミアでのこと。
パニーノに挟む具材に悩む私に、お店の人が代表的食材を一同に挟んだ「スペシャルパニーノ」
をつくってくれたのです。
中身は、生ハム、サラミ、ペコリーノチーズ、クリームチーズ、ドライトマト、グリーンソース、
クリームバルサミコ酢など、贅沢なほど具だくさん!

il panino speciale

そして先日、同じフィレンツェのガストロノミアで、ショーケースの中にフランチェズィーナ
(Francesina)を発見しました。
牛肉と玉ねぎをトマトソースで煮込んだ、トスカーナ料理です。
味見させてくれた生ハムの高級品・クラテッロには目もくれず、このフランチェズィーナを
パニーノに挟んでもらうことに。
さらに一条のオリーブオイルをたらしてくれ、絶品のパニーノが出来上がりました!

もちろんこうした汁気のある惣菜は容器にも入れてくれ、フォークももらえます。
パンを別に頼んで食べる人も多いですよ。

la francesina

どのガストロノミアでも、たとえカウンター越しに見えなくても、数種類のワインは必ず用意されて
いるもの。パニーノや惣菜に一杯の赤ワインを合わせるのが、イタリア流のランチです。

こうした最高級の特産品を使ったパニーノとワイン一杯で5.00ユーロ程度なのだから、
日本では考えられない安さ!
セットメニューが6.50ユーロするマクドナルドに、イタリア人は誰一人行かないのは納得です。
(イタリアのマクドナルドには観光客・外国人しかいないため、主に観光都市に数店舗あるだけ!)


バールにも、やや規模を小さくしたガストロノミア風のコーナーを設けたお店があります。
ここなら、より多くの種類のドリンクを合わせることもできるでしょう。もちろん食後の美味しい
エスプレッソも待っています!もし見つけたら、迷わず入りましょう!

旅行でイタリアを訪れる際も、ぜひガストロノミアを活用してみてください!
特に時間のないお昼はサッと済ませるのが一番!好きなものを好きなだけチョイスして、
世界で自分だけのオリジナルパニーノを作ってみてくださいね!




2012/01/11

しぼりたてスプレムータ



冬のこの時期、旬を迎えるのがオレンジ。イタリアは世界でも有数の生産国でもあります。
イタリアのバールでは、しぼりたてのジュース「スプレムータ」(Spremuta d'Arancia)を
その場で作ってくれ、とても人気があります。

私のオススメは、ブラッドオレンジのスプレムータ。
これこそイタリアが原産国で、IGP・保護地理的呼称に指定されているシチリア産ブラッド
オレンジ(Arancia Rossa di Sicilia IGP)は特に有名。
タロッコ(Tarocco)、サングイネッロ(Sanguinello)、モーロ(Moro)の各品種があります。

面白いのは、砂糖が添えられること。甘いもの好きなイタリア人らしいですね。
基本的にオレンジは冷蔵庫で冷やされていますが、夏場でも氷を入れる習慣はありません。
もし氷が欲しければ最初に尋ねてくださいね。

ちなみに私の好みは、オレンジと一緒にレモン1個もしぼってもらうこと。
酸味が増してとても美味しいですよ!
たまにグレープフルーツ(Pompelmo)を見かけたときは、真っ先に注文してしまいます!

もちろん普通のジュース(Succo di Frutta)も扱っていますが、果肉入りのフレッシュさは格別。
特に豊富に含まれるビタミンCは、切ったそばから気化していくので、やはりしぼりたてが
一番なのです!


ミラノで暮らしていた5年前の冬のこと。風邪で熱を出して寝込んだことがありました。
病み上がりにアペリティーヴォ(食前酒)の時間帯にバールを訪れると、なじみのバリスタが
「これでビタミンを摂るように」と、スプレムータを使ったカンパリ・オレンジを作ってくれたのです。
普通のジュースを使うよりも断然美味しく、心遣いとともに感動したものです。

ご家庭でもスプレムータはカンタンに出来ますね!健康的な習慣になると思います。
ビタミンを補給して、冬を元気に乗り切ってください!


2012/01/09

イタリアの薬用酒・アマーロ

数あるリキュールの中でも、イタリア独自のものに「アマーロ」と呼ばれるものがあります。
日本でもガイドブック等で紹介されていますが、誤った記述である場合がほとんど…。
そこで、イタリアではとてもポピュラーなこのお酒について、少し紹介してみたいと思います。


ふつう単にアマーロと呼ばれるリクオーレ・アマーロ(Liquore Amaro)は、薬草・香草・樹皮などの
植物や香辛料などを配合してつくられる、イタリア産ビター系リキュールの総称。
「苦味」を意味する通り、カクテルによく使われるスウィート系リキュールとは区別されます。
主な成分は、アロエ、アニス、ニガヨモギ、シナモン、カルダモン、ニガアザミ、キナノキ、
クミン、コリアンドロ、ウコン、ダイオウ、アーティチョークなど、数十種類にのぼります。
しかし各銘柄とも原材料・製法は秘伝とされているため、個別に詳細を挙げることはできません。

肝臓や胃腸に効能がある薬用酒として飲まれ、風味も日本の養命酒に近いかもしれませんね。
どの家庭にもお気に入りの1本が常備されているもので、主に食後酒として飲まれています。

バールやリストランテでは、少なくとも7-8種類のボトルが用意されていますが、
メニューを見ても「アマーロ」としか載っていません。
カウンターに並んだボトルの中から選ぶか、バリスタやカメリエーレ(ウェイター)に直接
尋ねてみてください。


食後酒として飲むなら、アヴェルナ(Averna)、ルカーノ(Lucano)、モンテネグロ(Montenegro)、
ラマッツォッティ(Ramazzotti)、フェルネット・ブランカ(Fernet Branca)、ブラウリオ(Braulio)
などが最も有名。
ショットグラスなどでそのまま飲むのが基本で、氷を入れてもいいでしょう。
アルコール入りエスプレッソ、カフェ・コッレット(Caffè Corretto)に注ぐお酒としても
非常にポピュラーです。

キナ・マルティーニ(China Martini)とラバルバロ・ズッカ(Rabarbaro Zucca)は、温めてもらっても
美味しいです。レモンピールを加えると香りも引き立ちますよ。

アルコール度数が30度前後あるアマーロの中で、チナール(Cynar)とラバルバロ・ズッカは
16度程度と低く、むしろ食前酒としてよく飲まれます。
氷とスライスオレンジを入れたセルツ(ソーダ水)割りは、完璧なイタリアンスタイル。
バリスタも、あなたを「通」と見なすはずです!

アルコール度数でいえば、39度のフェルネット・ブランカは、お酒に強い人向きですね。
このミント・フレーバー・バージョンがブランカ・メンタ(Branca Menta)。
度数も28度で、ミントの爽やかな香りが本来の強い苦味を抑えています。
モンテネグロ(23度)や、ブラウリオ(21度)も比較的飲みやすいですよ!


ここまで紹介したのは、最も基本的な飲み方。
バールでは、カフェ・シェケラートやカクテルに使われたり、ジェラートにかけて食べるなど、
バリスタが個性的なアレンジを提案してくれることでしょう。
身体にも良いとされる薬用酒・アマーロの楽しみ方を広げていってくださいね!



2012/01/07

漁師のコーヒー

今年のお正月を、かつて住んだトスカーナ州リヴォルノ(Livorno)近郊の町で過ごしてきました。
ここに戻ると、必ず飲みたくなるコーヒーがあります。
「ポンチェ・アッラ・リヴォルネーゼ」(Ponce alla Livornese)

アルコールを温めてエスプレッソを注いだものですが、エスプレッソにアルコールを注ぐ
カフェ・コッレットとはまったく別物。
数種類の材料を使うため、作り方で味は大きく変わり、バリスタの腕と個性が問われます!


まず違うのは、専用のグラスを使うこと。エスプレッソ用のものより少し大きい程度。
ここに砂糖、レモンの皮、ゴールド・ラムを入れます。これが“正式な”レシピですが、現在では
さらに同量のコニャックと、アニス酒・サッソリーノ(Sassolino)を少量加えるのが一般的。
これを、エスプレッソマシンの蒸気ノズルを使って、砂糖を溶かしながら温めます。
最後にエスプレッソをゆっくり注いで、出来上がり!

食後の飲み物ですが、冬には身体を温めるためにもよく飲まれます。

Ponce alla Livornese

ところで、同じくかつて暮らしたマルケ州ファノ(Fano)にも、同様の名物ドリンクがあります。
「モレッタ・ファネーゼ」(Moretta Fanese)
材料も作り方も基本的に同じ。コニャックではなく他の一般的なブランデーが使われ、
アニス酒は地元のヴァルネッリ(Varnelli)に代わるだけ。

ファノは、イタリア半島の東側・アドリア海に面した有数の漁師町です。
水揚げされたばかりの新鮮な魚介をつかった海鮮料理がとても有名ですが、
モレッタはそれ以上にイタリア全国に知れ渡る、町一番の名物。
「漁師が冬の冷たい海風から身体を温めるために飲み始めた」と言われていますが、
真冬のファノで一度飲めば、誰もが納得するはずです。

対してリヴォルノは、イタリア半島西側・ティレニア海の主要な港湾都市。
やはり由来は漁師と結びつけたいところですが、むしろメディチ家支配のトスカーナ大公国を
支える、国際貿易港としての地理的条件があったのかもしれません。

ポンチェの由来は、当時イギリスで流行していた飲み物・パンチ。
インドから製法を持ち帰った有名なアルコールドリンクですが、17-18世紀頃にリヴォルノに
伝わった際、エスプレッソとラムを使った独自のスタイルになったとされています。
中米産のラムやフランスのコニャックが輸入される港だった、と考えることもできるでしょう。

また、リヴォルノ港付近では、ショウガを加えたより強力なレシピがあるそうです。
身も凍る厳しい漁を終え、夜明け前の港に戻った漁師たちが、芯から冷えきった身体を
温めるために考案したのだとか…。やはり漁師に好まれる味なのですね。


いずれにしても、港町で同じものが生まれたことは、偶然の一致ではないはずです。
飲めばわかりますが、冷たい潮風にさらされて飲んでこそ美味しさが増すのであって、
決して乾燥した山あいの町で生まれる味ではない、ということだけは確か。

リヴォルノやファノに立ち寄った際は、ぜひ試してみてください。
バリスタが地元の誇りをかけて作ってくれるはずですよ!