2013/12/16

世界のお茶が集うバール

イタリアのバールのメニュー表には、「Tè」または「The」と書かれているものがあります。
いずれも「テ」と読み、つまりお茶のこと。ここでは一般的に紅茶のことを指します。

たいてい、いくつかの種類のティーバッグを用意しているのですが、選んでもらおうにも、
イタリア人は実に無頓着。
面倒そうな表情で、「紅茶は紅茶。他に何の種類がある?」と真顔で言われてしまうほど…。

「テ・アル・ラッテ」(Tè al Latte) = ミルクティー
「テ・アル・リモーネ」(Tè al Limone) = レモンティー
こうした注文を受ければ、少しばかりの手ごたえは感じるもの。

「テ・ネーロ」(Tè Nero) = 紅茶
「テ・ヴェルデ」(Tè Verde) = 緑茶
緑茶は比較的新しいメニューなので、こうして区別して注文を受けることも増えてきました。

視覚的にティーバッグを選べるバールもありますが、そうでない多くのバールでは
バリスタに尋ねることになります。
どのような紅茶を用意しているものなのか、事前に知っておくのもいいでしょう。

ダージリン(Darjeeling) - 繊細な香り高さをもつ、世界三大紅茶のひとつ。ストレートティー向き。
セイロン(Ceylon) - スリランカ原産。イタリア語では「チェイロン」と呼ばれることに注意。
アールグレイ(Earl Grey) - 柑橘類のベルガモットが香るフレーバーティー。ミルクティー向き。
イングリッシュ・ブレックファスト(English Breakfast) - 強い渋味のブレンド。ミルクティー向き。

以上は定番であり、バールによってはさらに種類を多く揃えているところもあります。
こくが強くミルクと相性の良いアッサム(Assam)や、ヴァニラピーチなどのフレーバーティー、
ミント風味の紅茶(Tè alla Menta)、バラの花茶(Tè alla Rosa)など…。

しかし例えば、単に「緑茶」とだけ書かれたティーバッグを見るたび、どうも首をかしげてしまうのは、私が日本人だからでしょうか。どの国で生産され、どんな種類の茶葉で、どのような等級なのか、まったく姿が見えないあまりにも抽象的すぎる「緑茶」…。

「緑茶は緑茶。他に何の種類がある?」という質問には、「緑茶」のティーバッグだけを
手にしては、それこそ何も答えることができないのです…。

バールの主役・カプチーノが注がれるはずのコーヒーカップも、ティーバッグとお湯だけ
添えられて、それを送り出す作り手側にもなんだか寂しげに映ります。

コーヒーが主流のイタリアでは、お茶を注文すればバリスタから「体調でも悪いの?」と
心配されることは珍しくなく、どこかネガティブな感じさえまとうような、そんな存在が「テ」でした。

ところがここ数年、コーヒーの脇役でしかなかったそんな「テ」に、激変が起こっているのです!


大都市を中心に、世界中の選りすぐりの本格的な茶葉を扱うバールが増えているのです。
デザイン性の優れた優雅で上品なティーカップやティーポット、さらには中国や日本の伝統的な茶器を扱うバールも珍しくありません。

専用の茶筒で温度や湿度を厳重に管理された茶葉は、多種多様。
アジアからは、中国、日本、インド、スリランカ、ネパールなど実に豊富な種類が揃います。
モロッコの甘いミントティー(Tuareg)をはじめとするアフリカ・中東からは、ケニア、トルコなども
エントリー。南米パラグアイのマテ茶(Matè)も独特の専用茶器とともに広く知られています。

まるでワインリストからワインを選ぶように、ティーリストに目を通す時間が至福のひととき…。
こうしたバールが爆発的に増え、今では地方の小さなまちでも多くのバールが世界のお茶を
扱うようになりました。

年配者から若者まで、驚くほど多くの家庭でも茶器と茶葉を揃えています。
お茶を嗜み、お茶で客をもてなすことが一種のステータスとなっているのです!

こうした流行もあって、イタリア人は日本茶についてもよく知っています。
番茶(Bancha)、煎茶(Sencha)、ほうじ茶(Hojicha)、玄米茶(Genmaicha)、茎茶(Kukicha)、
玉露(Gyokuro)、抹茶(Matcha)などは、もはや定着した外来語となっています。

近年の健康志向の高まりで、コーヒーによる過度のカフェイン摂取を避ける人が増え、
カテキンやビタミンなどの有効成分を豊富に含むお茶の効能が注目されることによって、
特に知識階級を中心に高級な嗜好品としての関心が広まったことが、この流行を
後押ししています。

イタリアでは東洋人のバリスタはまだまだ希少な存在ですが、コーヒー以上にお茶を充実させるバールすら出現している現状では、そこに大きな説得力を与える一面も生まれています。
コーヒーと並んでアルコールやカクテル、ワインなど幅広い知識を求められるバリスタには、
お茶の基本的な知識を学ぶことは今や急務となっています。


観光等でイタリアのバールを利用される日本の方々にとっては、より利用価値のある
場所となったかもしれませんね。
重厚な歴史を誇る大聖堂(ドゥオーモ)の前で日本茶をすする…なんて、ある意味贅沢です。

もちろんテイクアウトもできますし、なかには水筒持参で注文してくるお客さんもいます。
列車や車での移動の他、バールなどない山間部のトレッキングに出発する前などにも、
重宝する方法ですね!

立ち飲みが主流のバールでも、やはりお茶はテーブル席で飲むのが一般的。
ゆったりとした時間の流れに心をまかせることができるのが、お茶の一番の効能でしょう。

お湯のおかわりは基本的に無料なので、臆せず頼んでみてください。
レモンかミルクを添えるか、バリスタも丁寧に訊いてきますよ!


ところで、日本ではポピュラーなアイスティーですが、イタリアではペットボトルかアルミ缶の
市販品しか扱っていません。甘味料・着色料満載で、決して身体に良いとはいえないもの。
それも、レモン味かピーチ味のどちらかしかなく、約10年ほど前に新発売された緑茶味も
かなり甘く仕上がっていて、日本人には大きな違和感を感じる代物です…。

濃いめに淹れたお茶をシェーカーで急冷する方法はあるのですが、こうしたアイデアも
需要も無いのがイタリアの現状です。
しかし、夏には眩しく強い日差しがそそぐイタリア。輝く地中海を目の前に、自然の香りいっぱいのアイスティーは必ずマッチするはずです。南イタリア・ナポリ地方特産の瑞々しいレモンと合わせれば、それこそイタリア的ではありませんか!

そんな光景が日常のものとなるよう、まずは私が積極的に発信していきたいと思っています。


撮影協力/「ラ・ヴィア・デル・テ」
"LA VIA DEL TÈ" / Piazza Ghiberti, 22/23r - Firenze
http://laviadelte.it/(イタリア語・英語)


【関連バックナンバー】
高麗人参のエスプレッソ
バールのテイクアウト術


2013/12/13

本田選手・ACミラン移籍決定!

サッカー日本代表・本田圭佑選手のACミラン移籍が、正式に発表されました!
4年間在籍したCSKAモスクワの契約満了にともなう完全移籍です。



---セリエA 10人目の日本人選手

イタリアサッカーリーグ・セリエAへの日本人選手の移籍は、2010-11年シーズンから
チェゼーナに移籍した長友佑都選手以来、10人目になります。
その長友選手も、2011年1月の冬の移籍市場で名門インテルに電撃移籍しましたね!

ここで、セリエAでプレーした日本人選手を、もう一度振り返ってみましょう。
(出場試合数と得点は、昨シーズンまでのリーグ戦のみの通算成績)

FW 三浦知良: 21試合1得点 (1994-95 / Genoa)
MF 中田英寿: 182試合24得点 (1998-2005 / Perugia - Roma - Parma - Bologna - Fiorentina)
MF 名波浩: 24試合1得点 (1999-2000 / Venezia)
MF 中村俊輔: 81試合11得点 (2002-2005 / Reggina)
FW 柳沢敦: 44試合0得点 (2003-2006 / Sampdoria - Messina)
MF 小笠原満男: 6試合1得点 (2006-2007 / Messina)
FW 大黒将志: 10試合0得点 (2006-2008 / Torino)
FW 森本貴幸: 104試合19得点 (2006-2013 / Catania - Novara - Catania)
DF 長友佑都: 89試合4得点 (2010- / Cesena - Inter)
MF 本田圭佑: (2014- / AC Milan)

活躍した選手と、そうでない選手、結果はそれぞれですが、技術力は関係ありません。
イタリア語を覚え、チームメートと積極的にコミュニケーションをとった選手が成功しています。
本田選手も英語は堪能だと聞きますし、前所属CSKAモスクワではロシア語も覚えたとのこと。
イタリアでも必ずチームでリーダーシップを発揮してくれることでしょう。


---世界的名門クラブ

ACミランの創設は1899年。その歴史・実績ともに充分の、名門中の名門チームです。
セリエA優勝は、ユヴェントスに次ぐ18回で、インテルと並んで歴代2位。
欧州チャンピオンズリーグでも、レアル・マドリード(スペイン)に次ぐ歴代2位の優勝7回を誇り、
その輝かしい戦績はまさにサッカー界の歴史そのものです。

おのずとその人気も世界レベル。
チームカラーの赤と黒から「ロッソネーリ(Rossoneri)」との愛称で呼ばれ、
「ミラニスタ(Milanista)」と呼ばれるサポーターは地元ミラノにとどまらず、
イタリア全国、さらには世界中に多くのファンをもっています。

日本での人気は、1989年・1990年に、欧州王者としてトヨタカップを2連覇した時からでしょうか。
フリット、ファン・バステン、ライカールトのいわゆる「オランダトリオ」を擁する強力な攻撃陣と、
主将バレージ率いる堅固な守備陣が繰り広げる完璧なサッカーは、開催地・日本のサッカー
ファンを大いに魅了しました。

たとえミラニスタでなくとも、ACミランに所属した数多くのスター選手には、誰もが憧れを
抱いたのではないでしょうか。

ボバン(クロアチア)、レオナルド(ブラジル)、シェフチェンコ(ウクライナ)、ルイ・コスタ(ポルトガル)、カカ(ブラジル)、セードルフ(オランダ)といった外国人選手から、ドナドーニ、マルディーニ、コスタクルタ、ネスタ、ガットゥーゾ、ピルロ、インザーギといったイタリア人選手まで、彼らはACミランの象徴ともいうべき存在。

さらにここで一時期を過ごしたバッジォ(イタリア)、ロナウド、ロナウジーニョ(ブラジル)、
ベッカム(イングランド)ら、世界的スターの名前も挙げればきりがありません。

もちろん、世界中の監督にとっても、ACミランを指揮することはこれ以上ない栄誉。
1998-99年シーズンには、現日本代表のザッケローニ監督が率いてリーグ優勝。
これにより、同氏は名将としての地位を確立しています。


---背番号「10番」

こうしたスター集団の中で、今回本田選手がエースナンバー・背番号「10番」を継承することが、
最大のサプライズではないでしょうか。

イタリアでの本田選手の知名度は、欧州での活躍もあってもともと高いものでしたが、
移籍成立目前で破たんした1年前のラツィオ、半年前のACミランとの交渉過程は、
日々盛んに報道され、もはやカリスマ性をもって実力を高く評価されています。

日本人初のビッグクラブ加入となった長友選手のインテル移籍は、当時無名の存在だった
小柄な日本人に対して、懐疑的で冷ややかな反応でした。

しかし本田選手の状況はまったく違います。現在9位と低迷するチームの「救世主」として
獲得され、チームの上位浮上を劇的に牽引する活躍をすることは、「期待」という甘い言葉
ではなく、最低限の「責任」だとされているのが現地イタリアの受け止め方です。

フリット、サヴィチェヴィッチ、ボバン、ルイ・コスタ、セードルフ、ボアテングが継承してきた
伝統の背番号「10番」。
自らその番号を望んだ本田選手の強い覚悟は、熾烈なレギュラー争い以上に、
ACミランの象徴的存在となるべく、未知なる成長へと導いていくはずです。


---チームの現状

セリエA・第15節を終えた時点での、上位チームは以下の通り。(カッコ内は勝ち点)
ユヴェントス(40)、ローマ(37)、ナポリ(32)、インテル(28)、フィオレンティーナ(27)、ヴェローナ(25)

ACミランは財政難による主力選手の大量放出があり、今シーズンは現在勝ち点18の9位と
極度の不振に陥っています。

首位ユヴェントスとは勝ち点22の差があり、優勝は現実的ではありません。
来季のチャンピオンズリーグ出場圏内である3位を目指すことになりますが、現在3位の
ナポリとは勝ち点14差。本田選手はこの差を埋める活躍をしなければなりません。

「司令塔」として、イタリア代表のエース・バロテッリをはじめ、エル・シャーラウィ、ロビーニョ、
マトリ、パッツィーニらが揃う破壊力ある攻撃陣を生かす役割を担っています。

欧州チャンピオンズリーグには、イタリア勢で唯一16強に進出していますが、本田選手は
すでにCSKAモスクワの一員として出場したため、規定によりACミランではプレーすることが
できません。その分、リーグ戦での絶対的な活躍をみせる必要があります。


---長友選手、ミラノダービー

ACミランのホームスタジアムは、サン・シーロ。1990年のワールドカップ・イタリア大会の
開幕戦の舞台ともなった、イタリアサッカー界の聖地です。

同じくここを本拠地とするインテルとは、最大のライバル関係にあり、両チームが対戦する
ミラノ・ダービーの注目度と熱狂は、サッカーという枠を超えたイタリアの一大イベント。

来年5月4日のミラノダービーでは、インテル・長友選手との日本人対決に大注目です!


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私は20年来のインテリスタ(インテル・サポーター)なので、本田選手の移籍によって
ACミランを応援することはありませんが、彼の活躍には大いに期待しています。

サッカーと並んでF1やバイクなどのモーター・スポーツが国民的人気を誇るイタリアでは、
「HONDA」という名前は必ず親しんでもらえるはずで、愛される選手になってくれることでしょう。

サッカーの話題には事欠かないバールでも、日本人選手の活躍は、日本人バリスタへの
注目度を高めることにもなり、仕事がとてもやりやすくなることが個人的には一番嬉しいこと。
もちろん、バールでサッカー観戦するにも、またひとつ大きな楽しみが増えました!

イタリア人のザッケローニ監督による日本代表の急成長や、ビッグクラブ・インテルでの
長友選手の活躍などで、イタリアでも日本人選手の実力に注目が集まっています。
今後も多くの日本人選手がセリエAに移籍することを願うばかりです。


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