2012/02/29

日伊友好史(2) - 明治時代・お雇い外国人

戦国時代から江戸時代にかけてカトリック宣教師たちによって結ばれた日本とイタリアの関係は、
長い鎖国を経て、明治維新とともに再び引き寄せられることになりました。
このときは、近代化を図る明治政府の国策によるものでした。

「岩倉使節団」
1871年から約2年間、アメリカ及びヨーロッパ諸国に派遣された使節団のこと。
大使は岩倉具視。木戸孝允、大久保利通、伊藤博文ら明治政府首脳や、留学生を含めた
大規模なものでした。
いわゆる「文明開化」につながる外遊視察で、もちろんイタリアにも立ち寄っています。

その後、明治政府は殖産興業などを目的に、先進技術や学問、社会制度などを導入するため
多くの外国人を招聘・雇用しています。「お雇い外国人」と呼ばれる人々です。

多数を占めたのはイギリス人でした。鉄道敷設や電信技術、海軍整備、建築などの分野で
近代日本の基礎を築きました。
この他、陸軍の近代化や法律分野で貢献したフランス人、医学や地質学などで活躍した
ドイツ人、教師や開拓使に多かったアメリカ人、治水技術のオランダ人などが続きます。
2003年公開のハリウッド映画『ラスト・サムライ』は、この時代背景をモチーフにしていましたね。

近代国家建設に貢献したお雇い外国人のなかで、明治維新と同時期の1861年に国家統一を
果たしたイタリア人も、実は大きな足跡を残しているのです。
それは、主に絵画や彫刻の分野でした。

エドアルド・キヨッソーネ(Edoardo Chiossone / 1833-1898)
版画家・画家。ジェノヴァ近郊アレンツァーノ出身。
1875年に来日。大蔵省紙幣局で銅版印刷を指導し、紙幣、郵便切手、印紙、国債、銀行券、
証券など多くの版を彫っています。
画家としても多くの肖像画を残していて、明治天皇の御真影は誰もが一度は目にしたことが
ある有名なもの。他にも西郷隆盛や大村益次郎らを描いています。
日本で生涯を全うし、東京・青山霊園に葬られました。
政府から受けた莫大な収入を、日本の美術工芸品の収集に充て、これら貴重な収集品は
現在、ジェノヴァのキヨッソーネ東洋美術館(Museo d'Arte Orientale)に収蔵されています。

Edoardo Chiossone

1876年には工部大学校の付属機関として工部美術学校が設立され、ここにイタリア人たちが
招聘され来日しました。西洋美術教育の場として画学科と彫刻科の二科が設置されています。

フォンタネージ(Antonio Fontanesi / 1818-1882)
画家。レッジョ・エミリア出身。
工部美術学校・画学科を担当。西洋画を指導し、多大な影響を残しました。

ラグーザ(Vincenzo Ragusa / 1841-1927)
彫刻家。シチリア島パレルモ近郊出身。
工部美術学校・彫刻科を担当。日本人女性画家と結婚しています。

カペレッティ(Giovanni Vincenzo Cappelletti / 1843-1887)
工部美術学校の図学教師であり、工部大学校の建築科にも携わったとされています。
その後工部省に奉職し、ルネッサンス様式の参謀本部庁舎(永田町)や、ロマネスク様式の
遊就館(九段)などを設計。

例えば、2010年からサッカー日本代表を指揮するアルベルト・ザッケローニ監督は、
“現代のお雇い外国人”として、最も有名なイタリア人だと言えるかもしれませんね。
そう考えると、明治時代の彼らの位置づけも身近に感じられるのではないでしょうか。
このときに、イタリア人の美意識が私たち日本人の心に刻まれたのでしょう。

Vincenzo Ragusa

しかし、イタリア人たちが活躍した時期はわずかなものでした。
その後の帝国主義から第二次世界大戦敗戦後の高度経済成長期まで、主に英米社会を
発展モデルにしていったことで、日本とイタリアの関係は再び遠ざかることになってしまいます。

日独伊三国同盟で一時的な軍事関係はあったものの、イタリア文化やイタリア社会の価値観が
広く日本に受け入れられるようになったのは、バブル経済期の1980年代以降のこと。
日本が経済的に豊かになったとき、ようやくイタリアの魅力的な文化に目を向ける余裕が
生まれたのでしょう。

歴史上、日本とイタリアの関係が接近したのは、戦国末期と明治維新だけでしたが、
現在ではそれ以上に親密な二国間関係となっています。
お互い長い歴史を誇る国ですから、それぞれの文化を知ろうとする機運は近年急速に高まって
いるように思います。まだまだ知らない両国の魅力をよりいっそう理解し合えるよう、
現代の私たちにできることはきっとたくさんあるはずです。


【関連バックナンバー】
日伊友好史(1) - 戦国時代・カトリック宣教師

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