2014/05/14

バールの裏ワザ利用法!

イタリアのバールを、コーヒーを飲むためだけに利用していませんか?

実はバールは、それ以外にも利用価値のある、とても便利な場所なのです。
旅行でイタリアを訪れる際にも、大いに活用してみてください!


最も有効に利用したいのは、トイレ。
イタリアでは公衆トイレは非常に少ないので、観光中のとっさな時に助かります。
エスプレッソ1杯を頼んでから利用するのがスマートではありますが、ただトイレだけを尋ねても大丈夫。特に小さなお子さんや女性の方はすぐに通してくれますし、そうでなくても尋ねること自体はまったく問題ありません。
お店によっては、レジでトイレの鍵を受け取る場合があるので、バリスタに一声かけてみてくださいね。

また、道を尋ねるのもバリスタへ。
何も注文する必要はありません。バリスタは近隣の通り名を熟知しているので、親身丁寧に教えてくれるはずですよ。

ここ数年で充実してきたのは、Wi-Fiの設備。ほとんどのバールで完備しています。
日本から持参した携帯電話を無料でインターネットに接続できるので、調べ物や連絡にとても重宝します。
パスワードは気軽にバリスタに訊いてくださいね!

さらに、携帯電話の充電もお願いすることができます。
充電用のコードがあれば、店内のプラグに挿して充電完了まで管理してくれますし、iPhoneなどの主要な携帯電話ならスタッフのコードを使って充電してくれることもあります。

近隣のオススメのリストランテやナイトスポットもバリスタへ!
私も、穴場の観光スポットを訊かれることは日常茶飯事です。

気軽に両替をしてくれるのもバールならでは。
イタリアでは充分なお釣りを用意しているお店が少なく、またチップの習慣もあるので、常にコインを持っておくことは必須です。
逆に、コインをお札に両替することはバールでは歓迎されます。旅行の終盤にたまったコインをお札に代えて、空港等で日本円に両替するにも便利です。

もし急に具合が悪くなったら、街角のいたる所にあるバールに駆け込むことをオススメします。
席に座らせて水をくれ、常備している医薬品で応急処置もしてくれるでしょう。場合によってはすぐに救急車も呼んでくれます。
もしケガをして患部を冷やしたい場合は、ビニール袋に氷を詰めて渡してくれます。
こうした緊急事態はよくあるので、バリスタも対応には慣れていますよ!

氷に関しては、すべてのバールで無料でもらうことができます。
近隣のお店で購入したドリンクを冷やしたいときなど、わがままだけでもらうことができるのです。

こうして購入したワインやビールなども、その栓を開けてもらうだけでもバールに尋ねてみてください。必要であればテイクアウト用のコップも無料でくれます。

もし赤ちゃん連れの場合、エスプレッソマシンの蒸気ノズルを使って哺乳瓶を温めてもらえます。持参した粉ミルクをお湯で溶かし、ちょうど人肌に温めてくれ、これはすべて無料!床に落ちるなどして汚れたおしゃぶりも、サッと高温殺菌してくれますよ!
特に子供には優しい、人情深いイタリア人の心のこもったサービスです。

待ち合わせ場所にも、バールは最適!
イタリアでは予期せぬハプニングや交通時刻の遅れなどによって、人との待ち合わせはとかくうまくいかないもの…。
外で待ちぼうけにさせるのは、悪天候の時ほど気を遣うものですし、ここはバールを指定するようにしてください。美味しいドリンクとバリスタのおもてなしがあれば、双方安心して落ち合うことができます。

流しでタクシーを拾えないイタリアでは、数少ないタクシースタンドを探すのも一苦労。
ここでもバールが便利。電話ですぐにタクシーを呼んでくれますし、何も注文しなくても親切心だけで対応してくれます。


ここまでは、旅行者の方でも利用できるバールの活用法。
しかし、地元の住民はさらにバールを使いこなしています。

家族や友人への伝言はもちろん、家や車の鍵の受け渡し、荷物の受け渡しなど、バリスタを介して頼むことはよくあります。
観光客の方でも、数時間だけ荷物を預かってもらうこともできますよ!

24時間営業のコンビニが無いイタリアでは、スーパーも21-22時に閉店することは法律で義務付けられています。
深夜にどうしても食材が足りないとき、またそれ以外の時間帯でも、例えばミルクやフルーツ、パンといったバールで扱っている食材であれば、それを譲り受けて購入することができるのです。
当然メニューにはないものですが、バリスタが良心を持って料金を設定してくれますよ。

バールには通常、新聞や雑誌を置いているので、気になった記事のある新聞のバックナンバーをもらえることも気軽に尋ねることができます。気になった雑誌があれば、お金を払って買うことができるか尋ねてみてください。きっと無料でくれるはずです。

自分がつくった広告チラシやフライヤーを置かせてもらうこともできます。
地域のコミュニティの場として機能するバールでは、こうした「新しい情報」はむしろ歓迎されるのです。

ペットを連れての入店も、ほぼすべてのバールで問題はありません。
たいていは気の利いたバリスタがペットにも水を持ってきてくれますが、ぜひご自身でも訊ねてみてください。スタッフ全員が可愛がって撫でてくれると思いますよ!


積極的に尋ねれば、可能な限り対応してくれるのがバール。
お金を支払ったお客様なのか、通りすがりの方なのかは関係なく、あなたに何が必要なのかを人情として考えてくれるのです。

考えようによれば、日本のコンビニよりもはるかに便利で、融通が効き、助けとなってくれるのが、イタリアのバールです。
ほとんど知られていないバールの活用法を、思う存分試してみてくださいね!


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2014/04/25

貧者のカフェ・ソスペーゾ

イタリア南部・ナポリのバールには、今でも残るステキな習慣があります。

1杯のエスプレッソを注文する人が2杯分の代金を支払い、その後に来るであろう見ず知らずの貧しい人のために、1杯分のエスプレッソをストックさせておくのです。

こうしてストックされたエスプレッソのことを、「カフェ・ソスペーゾ」(Caffè Sospeso)といいます。
支払い済みで提供を「留保されたコーヒー」という意味。

カフェ・ソスペーゾの数はバリスタが責任を持って管理していて、お金に困った人がバールに来たとき、その範囲内でエスプレッソをサービスするのです。

わずかワンコインの思いやり。
人情味あふれるイタリア人の、飾らないバールの日常です。


イタリアのバールは、社会すべての人々に利用される場所。

私が勤めるフィレンツェのバールにも、地元出身のイタリア現首相から地域のホームレスまで、社会を構成する老若男女すべての人が訪れます。

一度バールに入れば、社会的階級や貧富の差はありません。皆が平等にカウンターに肩を並べ、コーヒーを飲み、気軽に声を掛け合い、友人となっていきます。
そして、またそれぞれの生活の場所に戻っていきます。

そんな光景が日々繰り返されるバールの中は、イタリア社会の縮図であり、あらゆるイタリア文化に触れることができる…。
その中心(カウンター)に身を置いてイタリアを知ることが、私がバリスタという仕事に魅力を感じたひとつの大きな動機でした。

なかでも実際に感銘を受けたのは、お金がない人も平等にバールを利用できるということ。
それを象徴する習慣がナポリをはじめとするイタリア南部のカフェ・ソスペーゾですが、私が渡り歩いた北・中部のバールでも、社会的弱者がバールという「縮図社会」から疎外されることは決してありません。

ここでは、バール側が彼らに無償でエスプレッソを淹れます。お腹が空いていれば、ブリオッシュを添えることもありますが、代金を要求することはありません。
あまりにも身なりが汚かったり、異臭すらするようなホームレスには、他のお客様の迷惑にならないように、ビールとパニーノを持たせてさりげなく帰します。

私がイタリアでバリスタとなった当初、飲食を訊ねて入ってくるホームレスを追い返していましたが、迷惑を掛けまいとした他のお客様や同僚から逆に冷たい視線を浴びたことで、この習慣に気づいたものです…。

施しを与えるカトリック文化が根底にあるのでしょうが、文化の違いは教わるのではなく、注意深く感じ取るしかありません。日本では最高のサービスだとされるものが、他国では必ずしもそうではないことが細かい部分で多々あり、戸惑いながらもイタリア人の感じる幸せを探っていきました。


世界中のどんな国にも、多かれ少なかれ貧富の差はあるもの。
しかし、一人ひとりの一度きりの人生の価値に差はありません。

貧富の差が生まれるのは避けられませんが、社会的弱者に冷たい視線を向けるのか、温かい一声を掛けるのか、その違いの方こそが、個人の集合体である社会全体の幸福度や成熟度の差になっていくのではないでしょうか。

衣食住という生きるための最低限の権利と同時に、プラスアルファ、人生を愉しむこともすべての人の権利であるはずです。
人生に潤いと笑顔を与える一番最初のアクションは、イタリアでは1杯のエスプレッソ。

バールでは、たくさんのステキな笑顔があなたを待っていますよ!


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2014/04/20

食後の裏メニュー・カナリーノ

イタリアのバールのメニュー表はとてもシンプルですが、実際には発想豊かなドリンクの注文を無限の数ほど受けます。バールを利用する側も、迎えるバリスタ側も、バールの魅力はそこに尽きるのですが、こうしたいわゆる「裏メニュー」としての代表的なドリンクに、「カナリーノ」(Canarino)があります。

カナリーノとは、ティーカップにレモンの皮を入れ、お湯を注いだだけのシンプルなホットドリンク。
名前の意味は「カナリア色」。レモンの皮を煎じることで色づく、明るい黄色が由来です。
食後の消化を助ける飲み物として、イタリアの食卓には欠かせない存在です。

そもそもは、マンマ(お母さん)やノンナ(おばあちゃん)の知恵として代々受け継がれてきた、伝統的な家庭の飲み物。
各家庭で様々なレシピがあり、ローリエやサルヴィア(セージ)などのハーブを加える地域もあります。家庭では、ティーカップよりもグラスに注ぐ方が一般的かもしれませんね。

イタリア全土で飲まれるカナリーノの起源は定かではありませんが、数世紀以上も昔に生まれたといいます。自然に考えれば、レモンの栽培が盛んなイタリア南部が発祥かと推測することもできるでしょう。
例えばイタリア北部・ヴェネト州では、「リモナータ」と呼ぶこともあるようですが、通常リモナータといえばフレッシュレモンを使ったコールドドリンクのことを指しますし、ネーミングやレシピから発祥の歴史を遡ることは難しいといえます。


本来なら、わざわざバールに赴いてお金を払って頼むようなドリンクではないのですが、
注文する人が後を絶たないのは、その効能にあります。

消化不良や胃もたれ、さらには吐き気や頭痛をも改善する効果があり、外出先で体調が優れない方がバールに駆け込むわけです。
レモンとお湯さえあれば簡単に出来るので、どんなバールでも作ってもらうことができるのです。
二日酔いにも効くので、私自身もよく作っていますよ!

ぜひご家庭でもお試しください!
美味しく作るポイントは、ピーラーを使ってレモンの皮を薄く切ること。内側の白い部分は加熱すると不快な苦味が出るので、外側の黄色い部分だけを剥くことです。
熱湯を注いだら5分以上おいて、鮮やかなカナリア色を帯びてくれば完成です。
砂糖やハチミツを加えても美味しいですよ!

バールでは、コーヒーが苦手な方にもオススメ。
地中海の太陽を浴びたレモンのイメージは、イタリアの優しいマンマの温もりも伝わってくるようです…。


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2014/04/16

生ソーセージ・サルシッチャ

世界中で生産されるソーセージ。
ドイツのフランクフルト、オーストリアのウィンナーソーセージ、スペインのチョリソなどは
日本でもお馴染みですね。

ここイタリアも、実はソーセージ大国だということをご存じですか?

ソーセージは、イタリア語では「サルシッチャ」(Salsiccia)といいます。
古代よりイタリア全土で食されているサルシッチャは、各地方でカタチも大きさも多種多様ですが、各地の郷土料理を特徴づける主要な食材となっています。

猪肉や羊肉といった変わり種はあるものの、やはりその多くは豚肉が原料。
一般的には、塩、胡椒、ニンニク、ハーブ類、ワインなどによってすでに味付けがされています。
グリルやボイル、煮込み料理など、たいてい加熱調理されますが、熟成させた種類のものはサラミとして食されます。


一般的に日本では、豚肉を生で食べることはタブーとされていますね。
豚がもつウィルスや寄生虫を原因として、食中毒や感染症を引き起こすリスクが高いためです。
日本国内で流通している豚肉はすべて加熱用となっているはずで、充分に火を通せばウィルスは簡単に死滅するので、普段は気にすることもないはずです。

ところがイタリアでは、サルシッチャを生で食べる地域があるのです!
徹底した細菌検査や防疫飼育された豚の肉が流通しているためで、細菌が繁殖しにくい乾燥した気候条件もあるでしょう。多湿な日本ではなかなか難しいことです。

サルシッチャを生で食べる地域は、主にイタリア中南部。
なかでもフィレンツェのバールでは、生サルシッチャをはさんだパニーノを手軽に食べることができるので、訪れた際にはぜひ挑戦してみてはいかがでしょうか?

腸詰された中身の肉だけを取り出して、パンにはさんだだけ。
特に、スキアッチャータ(Schiacciata)とよばれるフィレンツェ風フォカッチャに、クリーミーなストラッキーノ・チーズと練り合わせた生サルシッチャをはさんだものは定番中の定番。
柔らかな甘味が口いっぱいに広がり、忘れがたい味として虜になる逸品です!

ただし、やはり衛生管理のしっかりしたバールを選ぶことをオススメします。
ご自身で生サルシッチャを購入する場合は、スーパーではなく精肉店に行き、生食用の新鮮で高品質のサルシッチャをお店の人に出してもらうようにしてください。

時にグルメは命懸け。
お金を出すだけなら簡単ですが、目利きを通した発見こそが味の醍醐味です!



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2014/01/21

イタリアンバールの格付け最高峰

レストランを格付け評価するガイドブックの代表は、言わずと知れた『ミシュラン』。
ここイタリアでも知名度は高いのですが、フランス的な視点で選ばれるモダンアートとしての料理や高級志向のお店は、伝統的な料理やサービスを求める大多数の一般的なイタリア人にとって、信奉するほどの影響力はありません。

イタリアの書店に入れば一目瞭然。
『ミシュラン』を見つけることはできなくても、イタリア国内の出版社による格付けガイドブックが
目立つ場所に多数並んでいます。
リストランテ、トラットリア、オステリアなど様々な形態の飲食店を評価し、紹介しています。

ガンベロ・ロッソ社の『バール・ディタリア』(Bar d'Italia)は、その中でもイタリアのバールを
格付けする唯一のガイドブック。
創刊は2003年と比較的新しいのですが、当初800店舗の掲載でスタートしたものが、
最新の2014年版では1750店舗がエントリー。いずれも厳選された名店ばかりです。

各店舗の評価基準は2つ。
エスプレッソドリンクの味に対する評価を「コーヒー豆」(Chicco)のマークで表し、
お店の総合評価(店内環境、衛生面、サービス、サイドメニュー、カクテル等)を
「コーヒーカップ」(Tazzina)で表します。

それぞれの最高点はマーク3つ。
コーヒー豆「3」&コーヒーカップ「3」の満点を獲得したバールは、「年間最優秀バール」(Bar dell'Anno)を選出する「ファイナリスト」とされます。
10年連続で「ファイナリスト」に選ばれたバールには「星」マークが与えられ、殿堂入り扱いと
なります。

この星付きバールは、2014年版で、イタリア全国でも11店舗しかありません。

その中の1つ、フィレンツェ郊外にあるバール『トゥットベーネ』(Tuttobene)を取材してきました。


知人を介して紹介されたのが、オーナーのクラウディオ・ペッキオーリ氏(Claudio Pecchioli)。
若い頃、フランスやドイツで修業を重ねた同氏は、1982年にフィレンツェ近郊・カレンツァーノに
バール『トゥカーノ』(Tucano)を開業します。
1996年にカンピ・ビゼンツィオに移転してオープンしたのが『トゥットベーネ』。
『トゥカーノ』からの共同オーナー、マルコ・パスクイーニ氏(Marco Pasquini)と二人三脚で、
現在の確固たる評価を築いてきました。

朝食にはやや遅い朝10時半にお店に着いたのですが、カウンターには様々な種類の
ブリオッシュが鮮やかに並び、第一印象から心が躍ります。
同店は天然酵母によるペストリーに特に力を入れており、ペッキオーリ氏が語る天然酵母の
未来像にも熱が入ります。


カプチーノのクオリティの高さは圧倒的という他ありません。
艶やかなフォームドミルクと香ばしいエスプレッソが渾然一体となって口の中で広がります。
コーヒー豆はボローニャの焙煎所に特注したもので、ミルクは地元酪農家から仕入れています。

ペッキオーリ氏がカウンターに入れてくれ、バリスタのマウリツィオ・メニケッティ氏(Maurizio Menichetti)の説明で、エスプレッソドリンクのサービスの流れを目の前でしばらく観察します。

一度に7杯を同時に抽出し続ける4連式のエスプレッソマシンや、広いカウンターの作業台は、
忙しい時間帯にも関わらず常に清潔に整えられています。
これはとても大事なことなのですが、実際には思うほど簡単なことではありません。

カウンターに波のように人が埋め尽くす時間帯では、経験の浅いバリスタではドリンクを出す
だけでも手一杯でしょう。コーヒーの粉ひとつ、水滴ひとつ残さず整えられたカウンター内を
見るだけでも、バリスタのレベルの高さを知ることができます。


メニケッティ氏は、完璧なカプチーノの作り方の工程をすべて丁寧に説明してくれました。
自信があるバリスタほど、その技術はオープンにするものです。
約30秒の一見シンプルな工程も、途方もない経験の上でしか微調整ができないものですから。

イタリアでは多くのバールを訪れましたが、ここで初めて目にしたのが、ミルクの保冷タンク。
常に適温に冷やされ、蛇口からミルクピッチャーにその都度適量注ぐことができるもの。
通常はミルクパックを冷蔵庫から出し入れするのが普通なので、これは便利です!


続いてペッキオーリ氏が案内してくれたのは、別棟の調理室。
すでにランチの仕込みは最終段階で、翌日のペストリーの仕込みも始まっていました。

若きシェフのダヴィデ・ナルドーニ氏(Davide Naldoni)が次々とランチの料理を仕上げ、
他のコックたちは翌日のペストリーの仕込みをしています。
前日に準備して冷凍庫に保管された菓子類は、夜には35℃に設定された発酵庫に移され、
翌日早朝4時からオーブンで焼かれるという流れ。

自然発酵への愛情は、生地をこねる指先にまで感じることができました。


この別棟にある倉庫や従業員のロッカールームも特別に通してくれました。
50名以上の従業員が出入りする裏方とは思えないほど、まるでホテルのように清潔そのもので、
仕事に入る前の基本的なプロ意識を目の当たりにした思いです。
このようなバールはこれまで見たことがありません!


再びバールに戻り、ランチをいただきます。
惣菜専門店・ガストロノミアとして単独でも営業できるほどの料理がショーケースに並びます。
いや、品質はほぼリストランテそのもの!
パスタは注文ごとに茹でてソースと和え、いずれもそのスピードは迅速。
付近のビジネスマンやOLなど多くのお客さんでランチタイムは盛況です。

卓上のオリーブオイルも地元の一級品で、太陽を存分に浴びたオリーブ林の極上の香りは、
ひとときのヴァカンスにいざなうほどのリラクゼーションをもたらしてくれます。


私もランチのテーブルにつきます。
ワインにも精通するバリスタのメニケッティ氏がすぐに選りすぐりの食前酒を持ってきてくれました。
イタリア各地の厳選されたワインを選べるのも魅力です。

食事中は常に声をかけてくれ、最後の一口が胃に達するタイミングですばやくお皿を下げる、
徹底したサービス。
ホールだけではなく、カウンターからも各テーブルの動向を瞬時にコントロールするチームワークには脱帽するしかありませんでした。


天然酵母のペストリーに力を入れる同店では、ドルチェ(デザート)の種類も多彩です。
ランチの間も、テイクアウトのタルトが次々に包装されていきます。
私のテーブルに運ばれたドルチェも、味は言うまでもなく、メニケッティ氏セレクトによるデザートワインのサービスに心を打たれました。
イタリア各地の洗練されたデザートワインは、ドルチェの優雅な時間と味わいを増幅させます。


オーナーのペッキオーリ氏は、穏やかな口調で親身に話をしてくださる間も、その鋭い眼光は
絶えずお店の動向をチェックしています。
地元のコミュニティとしての空間に常連客が次々と顔を出し、挨拶をするペッキオーリ氏は一人ひとりを家族のように迎えます。

地元の産業と連携して食や生活スタイルを発信するバールの姿は、店内のあちこちに散りばめられています。
無添加の自然食材である地元農家のパスタ、オリーブオイル、トマトピューレ、ハチミツ、ジャムなどが並び、地元の一流職人が手がける家具やナイフなどもオブジェとして彩ります。
驚くことは、これらはすべてその場で購入できるということ!

世界中から集められたお酒も、希少な良質銘柄を揃えています。
ワイン、ビール、グラッパ、ウィスキー、カルヴァドス、コニャック、アルマニャック、ラム酒…。
世界各地のお茶も揃え、どんな時間に訪れても、至極の時間が約束されているようなもの。

新聞各紙や料理本なども販売しています。
新進アーティストによる月替わりの展示は、オブジェにアクセントを加え、地元の生活・食・アートを推進していく情報の集積・発信地としての役割は充分。


イタリアのバールは単なる喫茶店ではなく、様々な形態の複合的要素をもつものですが、
ここではいずれもクオリティの高さを誇り、ひとつの理想郷を体現しています。

コーヒーカップの中、お皿の中、だけではなく、それらの外にこそバールの重要な存在意義はあり、人の心を満たすものが何であるかを感じさせてくれる空間こそが、バールなのです。



格付けガイドブックには賛否両論あるでしょう。
『バール・ディタリア』にも大手焙煎メーカーのイリー社をはじめとするスポンサーが付いていることから、その影響力を否定する人がいないのも事実です。

しかし、プロの視点から評価される店舗には、少なからず他店にはない特徴的な「売り」があるわけで、格付けの評価の度合いは別として、そこに掲載されること自体に価値があるというもの。

評価点は、バールを訪れるあなた自身が感じてみてください。
1ユーロのエスプレッソを覗き込めば、1ユーロ分のカフェインしかありませんが、顔を上げてバリスタの声を聞けば、それ以上の価値となる活力を得ることができるでしょう。



バール「トゥットベーネ」
"Tuttobene" / Via San Quirico 296 - Campi Bisenzio (FI)
http://tuttobene-bar.it/

ガンベロ・ロッソ公式サイト
http://www.gamberorosso.it/(イタリア語・英語)


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2014/01/02

デカフェ - カフェインレスのすすめ

日本ではカフェインレス・コーヒーはずいぶん昔からある商品ですが、ここ数年耳にするように
なった呼び名が「デカフェ」。
大手コーヒーチェーン店などでも取り扱うようになり、街中でも気軽にデカフェを楽しめるように
なってきました。

欧米ではとても一般的なデカフェは、ここイタリアでも非常にポピュラーな存在で、デカフェを
扱っていないバールはまずありません。

イタリア語では「カフェ・デカフェイナート」(Caffè Decaffeinato)といい、略して「デカ」(Deca)。
家庭用デカフェの代表的商品名から「アグ」(Hag)と呼ばれることも少なくありません。


エスプレッソをベースにすべてのコーヒードリンクをつくるイタリアのバールでは、
通常のエスプレッソの代わりにデカフェをつかうことで、どんなコーヒーもカフェイン抜きで
楽しむことができるのです。

注文はいたってカンタン。
頼みたいコーヒーの後に「デカ」または「デカフェイナート」を添えるだけ。

カプチーノ・デカフェイナート
カフェ・マッキアート・デカフェイナート
カフェ・アメリカーノ・デカフェイナート
カフェ・マロッキーノ・デカフェイナート
カフェ・コレット・デカフェイナート…などなど。


バリスタとしてカウンターで注文を受ける印象としては、10-15杯に1杯はデカフェのオーダーが
入るのではないでしょうか。それほどイタリアでは一般的な存在です。

朝方よりも夜にかけてオーダーの数は増える傾向にあります。
もともとカフェイン自体が苦手でデカフェしか飲まないお客さんもいますが、睡眠の妨げにならないよう夜だけカフェインを避ける人が多いためです。

ある一定の一日の杯数以上はデカフェを頼むと決めているお客さんもいます。
また、胃腸の調子が悪いときや、妊娠中など、カフェインの刺激を避けることが望ましいお客さんには、こちらからお勧めをすることもあります。


36年のキャリアをもつベテラン・バリスタ、イシドーロ・ヴォドラ氏に、イタリアでのデカフェに
ついて話を聞きました。

ヴォドラ氏によると、粗悪なものしか流通していなかったデカフェに、良質なものが登場したのが1950年代後半。それから一気に広まったといいます。

現在イタリアで流通しているデカフェでは、カフェインを除去する製造工程は大きく分けて2つ。
「ケミカル・メソッド」と、「ウォーター・メソッド」です。

ケミカル・メソッドは、塩化メチレンなどの有機溶媒を利用してカフェインを直接除去するもの。
一方、ウォーター・メソッドは、一度水または蒸気で生豆の水溶性成分をすべて抽出した後に、
有機溶媒でカフェインのみを除去し、残りの成分を含む水を再び生豆に循環して戻す方法。

ケミカル・メソッドよりもウォーター・メソッドの方が手間はかかりますが、安全性や風味が優れているのが特徴です。

製造方法の明示は義務化されていないため、店頭でその違いを見極めることは難しいのですが、デカフェしか飲まないお客さんにとっては、エスプレッソ以上に味の違いが出るデカフェの風味は、お店を選ぶ重要な要素になっています。

味の違いは、むしろバリスタの腕によるところも大きいのです。
デカフェ用にグラインダー(豆を挽くマシン/ミル)を用意しているお店は少なく、多くのお店ではすでに挽かれた粉を一杯ごとにパッケージングされたものを使います。
通常エスプレッソでは7-8gの豆を使うのですが、デカフェでは約5gと少なく、ここで重要になるのは、より厳密で正確なタンピング。

イタリアのお客さんは、味の良し悪しをカウンターで直接バリスタに伝えることは日常的ですが、
デカフェを美味しく抽出したときは、興奮気味に感動を伝えてくれるほど!
バリスタにとっては、腕の試される、とてもやりがいのあるオーダーだといえるでしょう。


ただし、通常のエスプレッソ・コーヒーよりも味や風味において明らかに劣ることから、
カフェインを避ける場合以外は通常こちらからお勧めすることはありません。
また、ノンアルコール・ビールと同様、デカフェにもごく微量のカフェインは残っていることも
覚えておいてくださいね。

イタリア旅行の際、慣れない海外では体調にはくれぐれも注意したいもの。
胃腸にあまり刺激を与えたくないときは、無理せずデカフェを頼みましょう!
それぞれ個性的で魅力的なバールを数多く楽しむためにも、ぜひデカフェを活用してみてくださいね!


■ イシドーロ・ヴォドラ氏
イタリア南部・ポテンツァ出身。フィレンツェ移住後の1978年、20歳のときにバリスタ初勤務。
以来、36年間のキャリアを積む現役ベテラン・バリスタ。
特に1981年からの17年間は、イタリアの代表的カクテル・ネグローニを生んだ名店「ジャコーザ」で
バリスタを務め、フィレンツェのバール業界の変遷を見続けてきた第一人者でもある。


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