2012/04/21

ネグローニ伯爵のカクテル

イタリアにはかつて、「ミラノ-トリノ」と呼ばれたカクテルがありました。
ミラノ生まれのカンパリと、トリノのヴェルモットを合わせたことから、そう呼ばれたもの。

これにソーダ水を加えたものが「アメリカーノ」。
名前の由来は諸説ありますが、約100年ほど前に誕生して以来変わらず、イタリアで
最も愛されているカクテルのひとつです。アペリティーヴォ(食前酒)の定番中の定番!

* * * * * * *

1919年~1920年。イタリア中部・フィレンツェのバール"Caffè Casoni"。
そこで、アペリティーヴォで毎日飲むアメリカーノに少々飽きていた男がいました。
彼の名は、カミッロ・ネグローニ伯爵(Conte Camillo Negroni)。

彼は、バリスタのフォスコ・スカルセッリ(Fosco Scarselli)に訊ねます。
「ソーダの代わりにジンを入れてくれないか?」

カンパリ、ヴェルモット、ジンを3等分に注いだこの味をとても気に入った彼は、その後も
この「いつもの一杯」(il solito)のために通い続けたといいます。
他の常連客も「ネグローニ伯爵のカクテル」を相次いで注文するようになり、そのまま
「ネグローニ」の名で定着して一気に広まりました。

Negroni

現在、アメリカーノとネグローニは、イタリアが生んだ世界のスタンダード・カクテルとして、
あまりにも有名ですね。
国際バーテンダー協会(IBA)の77種類の公式カクテルにも数えられています。
ネグローニ発祥の"Caffè Casoni"は、"Caffè Giacosa"として今でもフィレンツェにありますよ!

ミラノには、「ネグローニ・ズバッリャート」という面白い飲み方もあります。
「間違ったネグローニ」という意味で、ジンの代わりにドライ・スプマンテを使ったもの。
1960年代、ミラノの"Bar Basso"で考案され、これも現在では広く親しまれています。
アルコール度数はやや下がり、スプマンテの気泡が加わって、飲みやすくなっています。

Caffè Giacosa (ex Caffè Casoni) a Firenze

イタリアではどのバールでも、こうして日々新しいドリンクが生まれています。
コーヒーにしても、カクテルにしても、お客さんそれぞれが「こだわり(レシピ)」をもっていて、
例えばカプチーノだけでも、百種類以上ものレシピがあるわけです。

それら千差万別のドリンクをバリスタはつくるわけで(だからこそメニュー表をつくれないの
ですが)、特に個性的なレシピを、便宜上そのお客さんの名前を冠して呼ぶことがあります。
ネグローニの場合、それが世界的なスタンダード・カクテルになりましたが、
これは「バール文化が生んだ傑作」だと言うこともできるのです。

さて、このネグローニも、もし味の好みがあれば、それもバリスタに頼んでみましょう。
甘口ならスイート・ヴェルモットの分量をやや多めに、辛口ならジンを多めにすることで、
調整できるからです。
ですから、ネグローニひとつとっても、常連客の好みのレシピは、すべてバリスタの頭の中に
入っています。


遠くまで「美味しいバールを探し歩く」のではなく、近くのバールで「好みのレシピをバリスタに
覚えさせる」…。
実はこれが、早く確実、イタリア流の「良いバール」を見つけるポイント!
だからイタリア人はみんな、自宅や職場の近くなど、それぞれ便利な場所に行きつけの
バールをもつことができるのです。

これがイタリアのバール文化の最大の強み。
スターバックスなどのアメリカ系コーヒーチェーン店が、イタリアに一切進出できない理由も、
ここにあるのです。

あなたなら、バールでどんな個性的なドリンクを注文してみますか?
数十年後には、あなたの名前がスタンダード・ドリンクになっているかもしれませんよ!


カンパリ・公式サイト(イタリア語・英語・ドイツ語)
http://www.campari.com/
国際バーテンダー協会・公式サイト(英語)
http://www.iba-world.com/


【関連バックナンバー】
食前酒・アペリティーヴォ…って何?
バリスタの選び方


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