モンテプルチャーノの町を後にし、西に山を下ると、オルチャ渓谷(Val d'Orcia)が広がります。
比較的平坦なキアーナ渓谷とは風景が変わり、よりやわらかな曲線で波打つ小麦畑は、
まるで緑のベルベットを広げたかのよう。
言葉にならないトスカーナの美しすぎる田園風景に、思わずため息が出てしまいます。
* * * * * * *
その途中に、世界遺産の町・ピエンツァがありました。
ローマ法王・ピウス2世が自らの名を冠してルネッサンス様式に造り変えた、中世の理想郷。
ここは羊の乳でつくられるペコリーノ・チーズが有名だということで、可愛らしい小さな町の
あちこちに、甘いチーズの香りが漂っていました。
ペコリーノには地元のハチミツを合わせて賞味するといい、最もよく合う甘過ぎないハチミツを
選んでもらいました。
秋には旬の洋ナシと合わせるのも定番。
フェッリ氏曰く、トスカーナ地方にはこんな言葉があるそうです。
「チーズに洋ナシを添えるとどんなに美味しいか、農夫に勧めるのは野暮」
"Al contadino non far sapere quanto è buono il cacio con le pere."
Pecorino di Pienza |
Pecorino Toscano DOP |
さらに西に進み、急斜面に張りつくブドウ畑やカンティーナ(ワイナリー)の看板が目立つ
ようになると、うねる山道の先の高台に、モンタルチーノの町が忽然と現れます。
モンタルチーノは、トスカーナのみならずイタリアでも最高級と評される赤ワイン、
「ブルネッロ・ディ・モンタルチーノDOCG」を生む、世界的に有名なワインの聖地。
その華やかな名声に比べて、町は小さく素朴なたたずまいで、中世に迷い込んだような
錯覚を起こさせるほど、落ち着いた雰囲気が印象的でした。
それでも町の最も高い場所にそびえる巨大な要塞は堂々とした威厳を放ち、中世からの
無骨な気風が、「ワインの王様」を生んだのではと思わせるほど。
強烈な存在感は、町のシンボルです。
その要塞の中に、市営のエノテカを見つけました。
そこには様々なカンティーナのブルネッロが並び、圧倒的な光景に気持ちは高まります。
スーパー・タスカンと呼ばれる、新時代のイタリアワインの最高級品も一堂に揃え、
1000ユーロにも達するボトルを手にする緊張感に、心も酔いしれるほど…。
破格の名声を誇るこのワインは、実はそれほど歴史の古いものではありません。
1850年代、クレメンテ・サンティ(Clemente Santi)という人物が、すでにキャンティなどに
使われていたサンジョヴェーゼ種から、サンジョヴェーゼ・グロッソという新しいブドウ品種を
生み出し、まもなくワイン造りが始まります。
その後各地の国際博覧会で次々と賞を獲得して、一気に世界的評価が高まったのです。
現在ではアメリカ系大資本などからの投資が続き、生産者数や栽培面積は飛躍的に
急増しています。
ここでは、バールでゆっくりブルネッロを味わうことにしました。
この地域の生ハム、サラミ、チーズを切ってもらい、ブルネッロの力強くもなめらかな深い
味わいを堪能しました。
しかもそのバールのセレクトは、2003年もの。私がイタリアで暮らし始めた年です!
右も左も分からず、新鮮な発見の連続と文化の大きな壁に無我夢中だった1年目。
とても暑かったあの夏に育ったブドウと、10年目の今その故郷で再会し、感慨もひとしおでした。
時代を超えて自分の原点と向き合える喜びも、ワインの大きな魅力のひとつですね。
Brunello di Montalcino DOCG |
ブルネッロと同じ地域・ブドウ品種で造られるものに、「ロッソ・ディ・モンタルチーノDOC」が
あります。
最低28ヶ月(樽熟成24ヶ月+ボトル内熟成4ヶ月)の熟成を要するブルネッロに比べて、
こちらは収穫翌年の9月には出荷でき、比較的リーズナブルな価格で楽しむことができます。
私にとっては、高級イタリアワインの美味しさを初めて知った思い出の1本で、大切な人への
贈り物として決めている銘柄。自信を持ってオススメします!
約60本ものワインを試飲できるエノテカ |
ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ協会・公式サイト(イタリア語・英語・中国語)
http://www.consorziobrunellodimontalcino.it/
【関連バックナンバー】
トスカーナ・ワイン街道(1) - モンテプルチャーノ
ボルゲリ - ブドウ畑の貴族邸
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