2013/12/16

世界のお茶が集うバール

イタリアのバールのメニュー表には、「Tè」または「The」と書かれているものがあります。
いずれも「テ」と読み、つまりお茶のこと。ここでは一般的に紅茶のことを指します。

たいてい、いくつかの種類のティーバッグを用意しているのですが、選んでもらおうにも、
イタリア人は実に無頓着。
面倒そうな表情で、「紅茶は紅茶。他に何の種類がある?」と真顔で言われてしまうほど…。

「テ・アル・ラッテ」(Tè al Latte) = ミルクティー
「テ・アル・リモーネ」(Tè al Limone) = レモンティー
こうした注文を受ければ、少しばかりの手ごたえは感じるもの。

「テ・ネーロ」(Tè Nero) = 紅茶
「テ・ヴェルデ」(Tè Verde) = 緑茶
緑茶は比較的新しいメニューなので、こうして区別して注文を受けることも増えてきました。

視覚的にティーバッグを選べるバールもありますが、そうでない多くのバールでは
バリスタに尋ねることになります。
どのような紅茶を用意しているものなのか、事前に知っておくのもいいでしょう。

ダージリン(Darjeeling) - 繊細な香り高さをもつ、世界三大紅茶のひとつ。ストレートティー向き。
セイロン(Ceylon) - スリランカ原産。イタリア語では「チェイロン」と呼ばれることに注意。
アールグレイ(Earl Grey) - 柑橘類のベルガモットが香るフレーバーティー。ミルクティー向き。
イングリッシュ・ブレックファスト(English Breakfast) - 強い渋味のブレンド。ミルクティー向き。

以上は定番であり、バールによってはさらに種類を多く揃えているところもあります。
こくが強くミルクと相性の良いアッサム(Assam)や、ヴァニラピーチなどのフレーバーティー、
ミント風味の紅茶(Tè alla Menta)、バラの花茶(Tè alla Rosa)など…。

しかし例えば、単に「緑茶」とだけ書かれたティーバッグを見るたび、どうも首をかしげてしまうのは、私が日本人だからでしょうか。どの国で生産され、どんな種類の茶葉で、どのような等級なのか、まったく姿が見えないあまりにも抽象的すぎる「緑茶」…。

「緑茶は緑茶。他に何の種類がある?」という質問には、「緑茶」のティーバッグだけを
手にしては、それこそ何も答えることができないのです…。

バールの主役・カプチーノが注がれるはずのコーヒーカップも、ティーバッグとお湯だけ
添えられて、それを送り出す作り手側にもなんだか寂しげに映ります。

コーヒーが主流のイタリアでは、お茶を注文すればバリスタから「体調でも悪いの?」と
心配されることは珍しくなく、どこかネガティブな感じさえまとうような、そんな存在が「テ」でした。

ところがここ数年、コーヒーの脇役でしかなかったそんな「テ」に、激変が起こっているのです!


大都市を中心に、世界中の選りすぐりの本格的な茶葉を扱うバールが増えているのです。
デザイン性の優れた優雅で上品なティーカップやティーポット、さらには中国や日本の伝統的な茶器を扱うバールも珍しくありません。

専用の茶筒で温度や湿度を厳重に管理された茶葉は、多種多様。
アジアからは、中国、日本、インド、スリランカ、ネパールなど実に豊富な種類が揃います。
モロッコの甘いミントティー(Tuareg)をはじめとするアフリカ・中東からは、ケニア、トルコなども
エントリー。南米パラグアイのマテ茶(Matè)も独特の専用茶器とともに広く知られています。

まるでワインリストからワインを選ぶように、ティーリストに目を通す時間が至福のひととき…。
こうしたバールが爆発的に増え、今では地方の小さなまちでも多くのバールが世界のお茶を
扱うようになりました。

年配者から若者まで、驚くほど多くの家庭でも茶器と茶葉を揃えています。
お茶を嗜み、お茶で客をもてなすことが一種のステータスとなっているのです!

こうした流行もあって、イタリア人は日本茶についてもよく知っています。
番茶(Bancha)、煎茶(Sencha)、ほうじ茶(Hojicha)、玄米茶(Genmaicha)、茎茶(Kukicha)、
玉露(Gyokuro)、抹茶(Matcha)などは、もはや定着した外来語となっています。

近年の健康志向の高まりで、コーヒーによる過度のカフェイン摂取を避ける人が増え、
カテキンやビタミンなどの有効成分を豊富に含むお茶の効能が注目されることによって、
特に知識階級を中心に高級な嗜好品としての関心が広まったことが、この流行を
後押ししています。

イタリアでは東洋人のバリスタはまだまだ希少な存在ですが、コーヒー以上にお茶を充実させるバールすら出現している現状では、そこに大きな説得力を与える一面も生まれています。
コーヒーと並んでアルコールやカクテル、ワインなど幅広い知識を求められるバリスタには、
お茶の基本的な知識を学ぶことは今や急務となっています。


観光等でイタリアのバールを利用される日本の方々にとっては、より利用価値のある
場所となったかもしれませんね。
重厚な歴史を誇る大聖堂(ドゥオーモ)の前で日本茶をすする…なんて、ある意味贅沢です。

もちろんテイクアウトもできますし、なかには水筒持参で注文してくるお客さんもいます。
列車や車での移動の他、バールなどない山間部のトレッキングに出発する前などにも、
重宝する方法ですね!

立ち飲みが主流のバールでも、やはりお茶はテーブル席で飲むのが一般的。
ゆったりとした時間の流れに心をまかせることができるのが、お茶の一番の効能でしょう。

お湯のおかわりは基本的に無料なので、臆せず頼んでみてください。
レモンかミルクを添えるか、バリスタも丁寧に訊いてきますよ!


ところで、日本ではポピュラーなアイスティーですが、イタリアではペットボトルかアルミ缶の
市販品しか扱っていません。甘味料・着色料満載で、決して身体に良いとはいえないもの。
それも、レモン味かピーチ味のどちらかしかなく、約10年ほど前に新発売された緑茶味も
かなり甘く仕上がっていて、日本人には大きな違和感を感じる代物です…。

濃いめに淹れたお茶をシェーカーで急冷する方法はあるのですが、こうしたアイデアも
需要も無いのがイタリアの現状です。
しかし、夏には眩しく強い日差しがそそぐイタリア。輝く地中海を目の前に、自然の香りいっぱいのアイスティーは必ずマッチするはずです。南イタリア・ナポリ地方特産の瑞々しいレモンと合わせれば、それこそイタリア的ではありませんか!

そんな光景が日常のものとなるよう、まずは私が積極的に発信していきたいと思っています。


撮影協力/「ラ・ヴィア・デル・テ」
"LA VIA DEL TÈ" / Piazza Ghiberti, 22/23r - Firenze
http://laviadelte.it/(イタリア語・英語)


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バールのテイクアウト術


2013/12/13

本田選手・ACミラン移籍決定!

サッカー日本代表・本田圭佑選手のACミラン移籍が、正式に発表されました!
4年間在籍したCSKAモスクワの契約満了にともなう完全移籍です。



---セリエA 10人目の日本人選手

イタリアサッカーリーグ・セリエAへの日本人選手の移籍は、2010-11年シーズンから
チェゼーナに移籍した長友佑都選手以来、10人目になります。
その長友選手も、2011年1月の冬の移籍市場で名門インテルに電撃移籍しましたね!

ここで、セリエAでプレーした日本人選手を、もう一度振り返ってみましょう。
(出場試合数と得点は、昨シーズンまでのリーグ戦のみの通算成績)

FW 三浦知良: 21試合1得点 (1994-95 / Genoa)
MF 中田英寿: 182試合24得点 (1998-2005 / Perugia - Roma - Parma - Bologna - Fiorentina)
MF 名波浩: 24試合1得点 (1999-2000 / Venezia)
MF 中村俊輔: 81試合11得点 (2002-2005 / Reggina)
FW 柳沢敦: 44試合0得点 (2003-2006 / Sampdoria - Messina)
MF 小笠原満男: 6試合1得点 (2006-2007 / Messina)
FW 大黒将志: 10試合0得点 (2006-2008 / Torino)
FW 森本貴幸: 104試合19得点 (2006-2013 / Catania - Novara - Catania)
DF 長友佑都: 89試合4得点 (2010- / Cesena - Inter)
MF 本田圭佑: (2014- / AC Milan)

活躍した選手と、そうでない選手、結果はそれぞれですが、技術力は関係ありません。
イタリア語を覚え、チームメートと積極的にコミュニケーションをとった選手が成功しています。
本田選手も英語は堪能だと聞きますし、前所属CSKAモスクワではロシア語も覚えたとのこと。
イタリアでも必ずチームでリーダーシップを発揮してくれることでしょう。


---世界的名門クラブ

ACミランの創設は1899年。その歴史・実績ともに充分の、名門中の名門チームです。
セリエA優勝は、ユヴェントスに次ぐ18回で、インテルと並んで歴代2位。
欧州チャンピオンズリーグでも、レアル・マドリード(スペイン)に次ぐ歴代2位の優勝7回を誇り、
その輝かしい戦績はまさにサッカー界の歴史そのものです。

おのずとその人気も世界レベル。
チームカラーの赤と黒から「ロッソネーリ(Rossoneri)」との愛称で呼ばれ、
「ミラニスタ(Milanista)」と呼ばれるサポーターは地元ミラノにとどまらず、
イタリア全国、さらには世界中に多くのファンをもっています。

日本での人気は、1989年・1990年に、欧州王者としてトヨタカップを2連覇した時からでしょうか。
フリット、ファン・バステン、ライカールトのいわゆる「オランダトリオ」を擁する強力な攻撃陣と、
主将バレージ率いる堅固な守備陣が繰り広げる完璧なサッカーは、開催地・日本のサッカー
ファンを大いに魅了しました。

たとえミラニスタでなくとも、ACミランに所属した数多くのスター選手には、誰もが憧れを
抱いたのではないでしょうか。

ボバン(クロアチア)、レオナルド(ブラジル)、シェフチェンコ(ウクライナ)、ルイ・コスタ(ポルトガル)、カカ(ブラジル)、セードルフ(オランダ)といった外国人選手から、ドナドーニ、マルディーニ、コスタクルタ、ネスタ、ガットゥーゾ、ピルロ、インザーギといったイタリア人選手まで、彼らはACミランの象徴ともいうべき存在。

さらにここで一時期を過ごしたバッジォ(イタリア)、ロナウド、ロナウジーニョ(ブラジル)、
ベッカム(イングランド)ら、世界的スターの名前も挙げればきりがありません。

もちろん、世界中の監督にとっても、ACミランを指揮することはこれ以上ない栄誉。
1998-99年シーズンには、現日本代表のザッケローニ監督が率いてリーグ優勝。
これにより、同氏は名将としての地位を確立しています。


---背番号「10番」

こうしたスター集団の中で、今回本田選手がエースナンバー・背番号「10番」を継承することが、
最大のサプライズではないでしょうか。

イタリアでの本田選手の知名度は、欧州での活躍もあってもともと高いものでしたが、
移籍成立目前で破たんした1年前のラツィオ、半年前のACミランとの交渉過程は、
日々盛んに報道され、もはやカリスマ性をもって実力を高く評価されています。

日本人初のビッグクラブ加入となった長友選手のインテル移籍は、当時無名の存在だった
小柄な日本人に対して、懐疑的で冷ややかな反応でした。

しかし本田選手の状況はまったく違います。現在9位と低迷するチームの「救世主」として
獲得され、チームの上位浮上を劇的に牽引する活躍をすることは、「期待」という甘い言葉
ではなく、最低限の「責任」だとされているのが現地イタリアの受け止め方です。

フリット、サヴィチェヴィッチ、ボバン、ルイ・コスタ、セードルフ、ボアテングが継承してきた
伝統の背番号「10番」。
自らその番号を望んだ本田選手の強い覚悟は、熾烈なレギュラー争い以上に、
ACミランの象徴的存在となるべく、未知なる成長へと導いていくはずです。


---チームの現状

セリエA・第15節を終えた時点での、上位チームは以下の通り。(カッコ内は勝ち点)
ユヴェントス(40)、ローマ(37)、ナポリ(32)、インテル(28)、フィオレンティーナ(27)、ヴェローナ(25)

ACミランは財政難による主力選手の大量放出があり、今シーズンは現在勝ち点18の9位と
極度の不振に陥っています。

首位ユヴェントスとは勝ち点22の差があり、優勝は現実的ではありません。
来季のチャンピオンズリーグ出場圏内である3位を目指すことになりますが、現在3位の
ナポリとは勝ち点14差。本田選手はこの差を埋める活躍をしなければなりません。

「司令塔」として、イタリア代表のエース・バロテッリをはじめ、エル・シャーラウィ、ロビーニョ、
マトリ、パッツィーニらが揃う破壊力ある攻撃陣を生かす役割を担っています。

欧州チャンピオンズリーグには、イタリア勢で唯一16強に進出していますが、本田選手は
すでにCSKAモスクワの一員として出場したため、規定によりACミランではプレーすることが
できません。その分、リーグ戦での絶対的な活躍をみせる必要があります。


---長友選手、ミラノダービー

ACミランのホームスタジアムは、サン・シーロ。1990年のワールドカップ・イタリア大会の
開幕戦の舞台ともなった、イタリアサッカー界の聖地です。

同じくここを本拠地とするインテルとは、最大のライバル関係にあり、両チームが対戦する
ミラノ・ダービーの注目度と熱狂は、サッカーという枠を超えたイタリアの一大イベント。

来年5月4日のミラノダービーでは、インテル・長友選手との日本人対決に大注目です!


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私は20年来のインテリスタ(インテル・サポーター)なので、本田選手の移籍によって
ACミランを応援することはありませんが、彼の活躍には大いに期待しています。

サッカーと並んでF1やバイクなどのモーター・スポーツが国民的人気を誇るイタリアでは、
「HONDA」という名前は必ず親しんでもらえるはずで、愛される選手になってくれることでしょう。

サッカーの話題には事欠かないバールでも、日本人選手の活躍は、日本人バリスタへの
注目度を高めることにもなり、仕事がとてもやりやすくなることが個人的には一番嬉しいこと。
もちろん、バールでサッカー観戦するにも、またひとつ大きな楽しみが増えました!

イタリア人のザッケローニ監督による日本代表の急成長や、ビッグクラブ・インテルでの
長友選手の活躍などで、イタリアでも日本人選手の実力に注目が集まっています。
今後も多くの日本人選手がセリエAに移籍することを願うばかりです。


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2013/03/28

つまようじの国

日本人にとって、食後のつまようじは欠かせないアイテムですよね。
食堂でも、当たり前のように各テーブルに置いてあります。

ところが、ヨーロッパを旅行すると、それが当たり前でないことに気づくはずです。
少しばかり不便な思いをした経験はありませんか?

イタリアのリストランテやバールでも、もちろんテーブルには備えられていませんが、
そこで諦めてはいけません!
どのお店でも、実は頼めば持ってきてくれるのです。

イタリア語で「つまようじ」は「ストゥッツィカデンティ」(lo stuzzicadenti)といいます。
「アヴェーテ・ウーノ・ストゥッツィカデンティ?」(Avete uno stuzzicadenti?)と尋ねる一言だけ。

イタリア人でも尋ねてくる人はもちろんいますが、少数です。
人前で歯を掃除するのは決して上品とはいえませんし、“歯の掃除道具”を食事のテーブルに
備え置くなんて絶対にありえない、という感覚です。
それでもつまようじを使うのはマナー違反ではありませんが、少なくとも手で口を覆うのが、
最低限の礼儀だといえるでしょう。

バールでは、バリスタの手元に置いてあるので、カウンターで直接尋ねてみてください。
リストランテと比べてバールでは、つまようじはより重要な存在です。
特にアペリティーヴォ(食前酒)の時間帯。
オリーブやチーズなどのおつまみを取るために大活躍し、カクテルにデコレーションをする
道具としてもバリスタは使います。


イタリアのつまようじは、両端の先端が鋭く尖っているのが特徴です。
先端恐怖症でなくても、なんだか扱いづらいと思うのは、やはり日本人だからでしょうか。

しかし私にとってそれ以上に気になるのが、各メーカーの商品名です。
「SAMURAI」、「SAYONARA」、「KIMONO」、「KARATE」、「NIKKO」、「KENDO」、「SAKURA」…。
いずれも、日本語ですね。
一体なぜでしょう…。


つまようじの原形は、歯を掃除する道具として、おそらく人類史上最も古いものであると
されていて、特別に日本やアジアで発明されたものではありません。
中世イタリアでは、ブロンズ製や貴金属製のものが上流階級の間で広まっていたともいいます。

しかし、現代において、こうした卓上の日用品としてのつまようじを広く生産・流通させたのは、
日本の企業なのではないでしょうか?
実際、イタリアの主要ブランドには、「Made in Japan」の記載があります。

品質の高いつまようじを安く大量生産する日本の技術力を察することは難しくありませんが、
消費者の購買意欲につなげるブランド・イメージとしてのネーミングに、品質や流通過程を
関連付ける理由は、つまようじに関しては薄いような気がします。

いずれの商品名を見ても、むしろ日本の伝統文化をイメージさせるものばかり。
どのパッケージにも、武士の姿や、浮世絵風の日本女性、芸者などの古風なデザインが
施されていることからも、一貫したイメージ戦略が垣間見えます。

多くのイタリア人が、日本の映画・アニメを通して、日本の食文化・生活文化をよく知っています。
楊枝をくわえた孤高のサムライや、コミカルに楊枝を使う忍者や武道家のアニメキャラクター…。
つまようじに、何かしらの「物語」をイメージさせるとき、世界の中でも、こうした日本の姿を
連想するのは、ごく自然なことなのかもしれませんね。

多くのイタリア人は、これらのネーミングがすべて日本語だということすら気づいていません。
それほど当たり前のように浸透している日本文化が、イタリアには数多くあります。
イタリアの食文化を学びに来た私ですが、同時に、日本文化をイタリア人に広く伝える使命も
求められていることを感じずにはいられません。


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食前酒・アペリティーヴォ…って何?
リキュールの日本代表・ミドリ


2013/03/23

イタリアンな日本車たち

ここ数年、日本を訪れるたびに、前方を走るクルマを見てハッとすることがあります。

日本語のナンバープレートを懐しみながら、頭の中の“言語チャンネル”はすでに日本語。
そこに、ふいに目に飛び込んでくる、思いもかけないイタリア語の文字…。
アルファベットで綴った、車種名のプレートです。


運転することは大好きでも、クルマのモデルを気にすることはなかった私ですが、
こうして目にすると、イタリア語を冠したクルマが実に多いことに気づかされます。

イタリア語として意味が分かる分、開発チームの思いがストレートに伝わるようで、
なかなか面白いものです。
今では運転中も、思わずイタリア語名のクルマを探してしまうほど。
いずれも馴染み深いクルマですが、みなさんはいくつご存知ですか?

◆ トヨタ
プレミオ(Premio) =賞、表彰、プレミアム
パッソ(Passo) =一歩、足どり、ステップ
ポルテ(Porte) =(複数の)扉、ドア

◆ 日産
セレナ(Serena) =平穏な、晴れ渡った
フーガ(Fuga) =フーガ(音楽用語)、逃走、脱出
ムラーノ(Murano) =ヴェネツィアのムラーノ島

◆ スズキ
アルト(Alto) =高い

◆ ダイハツ
タント(Tanto) =たくさんの、とても
ミラ(Mira) =標的、照準

◆ スバル
ステラ(Stella) =星


かつて販売していた往年のクルマにも、イタリア語の名前はありました。

◆ トヨタ
コルサ(Corsa) =走行、レース
コロナ(Corona) =王冠
カリーナ(Carina) =かわいい
ビスタ(Vista) =景色、眺望、視界
アルテッツァ(Altezza) =高さ、高貴

◆ 日産
シルビア(Silvia) =女性の名
グロリア(Gloria) =栄光、栄誉
ラルゴ(Largo) =幅広い、ゆったりした

◆ ダイハツ
クオーレ(Cuore) =心、ハート、中心

◆ スバル
レオーネ(Leone) =ライオン


こうして列挙してみると、トヨタ、日産のイタリア語への傾倒が感じられる反面、
ホンダ、マツダ、三菱のクルマが見当たらないのが面白いところ。
それでも、かつてはイタリア語のクルマもわずかにありました。

◆ ホンダ
ドマーニ(Domani) =明日

◆ マツダ
ルーチェ(Luce) =光、光明
ペルソナ(Persona) =人、人格


ただし、ここで挙げた車名は、イタリア語に見られる名称について、その意味を表記したものです。
一部には、英語やスペイン語、フランス語などの同じ綴りをもつ単語から命名された車種がある
可能性がありますが、意味はさほど変わらないでしょう。

イタリア語の発音的には、「セレナ」は「セレーナ」に近く、「ステラ」は「ステッラ」、さらには
「ビスタ」は「ヴィスタ」としなければ、言語としては通じないことだけ補足しておきます。


自動車の名前は、アメリカ、イギリスといった自動車大国を追随する英語名であることが
多いですよね。
とはいえ、同じ生産大国のドイツを意識したドイツ語名がほとんど見当たらない中で、
イタリア語名が多用される傾向は注目すべきところです。

1980年代はじめの日本におけるスポーツカー・ブームで脚光を浴びた、アルファロメオや
ランボルギーニ、現在でもF1で活躍するフェラーリを産んだ国・イタリア。
その「運転を楽しむクルマ」への憧れがあるのでしょうか。

バールでも、今後そんな話もしてみたいと思います。
こうした日本のトレンドを知れば、イタリア人たちもきっと喜ぶことでしょう!


2013/02/09

独身たちのフェスタ!

2月14日はバレンタインデーですね。
日本では女性から男性に愛を伝える独特の習慣がありますが、聖者ヴァレンティーノの故郷・
イタリアでは、恋人同士や夫婦でお互いに愛を誓い合う日です。

世界中がロマンチックなムードに包まれる大イベントですが、決して少数派ではないはずの
恋人のいない人たちは、一体どうしたらいいのでしょう…?
しかし、お祭り好きのイタリア人ですから、そんな独身たちを放っておくはずはありません。

バレンタインデーの翌日・2月15日は、聖ファウスティーノ(San Faustino)の日。
およそ1900年前にイタリアに実在した聖人で、現在では「独身者の守護聖人」と呼ばれています。
そこで、近年ではこの日に、独身たちのフェスタ(Festa dei Single)を楽しむ動きが広まって
きています。

しかし、この“記念日”をそれぞれがどうお祝いするのか…気になりますよね?

一人でお祝いする人は、まずいないでしょう。
たいていは、同じ独身の友人たちとホームパーティーを開いたり、ディスコやクラブ、バーなどで
企画される同フェスタに出かけ、仲間たちと陽気に飲んで踊り明かすといったようなもの。

恋人のいない男女が集まれば、そこで新たにパートナーを見つける絶好の機会にもなりますし、
たとえそこまで意気込まなくても、友人たちに囲まれて楽しく過ごす時間に幸せを感じるのも、
とても良いものです。

仲間とお酒で賑やかに過ごすよりも一人で自分の時間を楽しみたい方は、この時期に
欠かせない温泉施設でゆっくりするのも良いですね。
この日、一人で利用する方に特別割引をする施設も少なくありません。

また、一人気ままに旅行をしてみたい方には、この日だけシングルルームを割引料金で
用意しているホテルがオススメです。

2月15日にイタリアを一人旅する方は、こうしたイベントに参加するのも楽しいですし、
“独身割引”をうまく利用するのも面白い手だと思いますよ!

San Faustino

バレンタインデーを誰とも祝えず、なんだか少しだけ寂しい気持ちになるちょうど翌日に、
こんなに楽しく過ごせる日を用意しているイタリアは、なんとも粋な国だと思いませんか?

恋人がいないことを引け目に感じるなんて、イタリア人の性には合いません。
バレンタインデーにどこか居心地の悪い思いをしたら、翌日にはすぐに出会いの場を
つくってしまう。いつもの仲間と笑い飛ばしてしまう。

イタリアの独身たちにとって2月15日は、寂しさを埋めるなんてネガティブな日では決してなく、
恋人を見つける前祝いのような、または交友関係をさらに広げていくような、どこまでも
前向きな一日なのです。


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聖ヴァレンティーノの日


2013/01/27

魅惑のティラミス

おそらく、世界で最も有名なイタリアのデザートは、ティラミス(Tiramisù)でしょう。

イタリアでも全国的にポピュラーですが、不思議なことに、イタリア地方料理を扱う資料には
ほとんど登場しません。時折ようやく見つけるのは、「ヴェネト州のドルチェ」の記載だけ…。
それもそのはず、調べてみると、その発祥は1960年代。
近年考案された新しいドルチェなのです。

確かに、「地方の伝統菓子」と呼べる要素が少ないことは、その原材料を見ればわかります。
マスカルポーネ(Mascarpone)はロンバルディア州特産のチーズですし、エスプレッソに浸す
ビスケット・サヴォイアルディ(Savoiardi)は、ピエモンテ州、シチリア島、サルデーニャ島など
全国的に幅広い地域で盛んにつくられる、あまり地方色のないお菓子です。

イタリア各地にはティラミスに似たような伝統菓子があり、そこまで遡って関連付けると、
その発祥には様々な説があるようです。
しかし、「ティラミス」という名前で現在のレシピが考案されたのは、多くの料理専門誌によると、
イタリア北東部ヴェネト州・トレヴィーゾの、『ベッケリーエ』(Beccherie)というリストランテ。

「ティーラミ・スー!」(Tirami sù!)、つまり「私を元気づけて!」というフレーズがそのまま名前に
なった、斬新でキャッチーなネーミングと、オーブンなど特別な設備がなくてもつくれる手軽さも
受けて、瞬く間に世界中に広まりました。


いまだ記憶に新しい、日本のティラミス・ブームは、バブル景気全盛の1990年頃のこと。
当時は爆発的な人気を呼び、社会現象ともなったイタメシ・ブームをけん引する主役でした。
どのお店にも行列ができ、生産も追いつかないほどで、ようやく口にした時の今まで味わった
ことのない美味しさには感動したものです。

日本のティラミスは、スポンジ生地をベースにしたようなものでしたが、本場イタリアのものは、
やわらかくなめらかでクリーミーそのもの。

軽くソフトなサヴォイアルディは、たっぷり浸したエスプレッソが滲み出るほどジューシーで、
マスカルポーネと卵黄、砂糖で泡立てたクリームは、なめらかでとろけるような舌触りと、
甘美なコクが口いっぱいに広がります…。

ティラミスを目の前に、その誘惑を断れる人は少ないのでは…?そして一度口にすれば、
誰もが言葉を失い、うっとりと陶酔してしまう魔法が、ティラミスにはあるのです!


食後のデザートとしてリストランテのメニューにはよくあるのですが、バールでは実はどこにでも
おいてあるものではありません。調理で生卵を扱うには、法定設備と認可が必要だからです。

キッチンもないようなバールにもしティラミスがおいてあれば、それは工場生産のものを
仕入れているということ。味はそれほど期待できないでしょう。

コーヒー焙煎所(Torrefazione)と菓子店(Pasticceria)を兼ねているようなバールは理想的。
本当に美味しいティラミスが期待できるといえます。
上質なエスプレッソを淹れるバールの強みを生かせるドルチェだといえますね!

私は職業柄、コックやパティシエの作りたてを味見する機会が多いのですが、
泡立てたばかりの極限になめらかで濃密なクリームは、どんなに美味しいリストランテで
食べるものよりも、さらに百倍美味しいと断言できます。

とにかく、ティラミスは鮮度が命!
ですから、オススメしたいのは、ご家庭で作りたてを食べていただくこと。
とても簡単ですし、レシピは様々なものが出ているので、ぜひ試してみてください。
分量の違いなどもありますが、とにかく丁寧にきめ細かく泡立てるのがコツですよ!


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2013/01/18

バールで朝食を!

夜明け前、小鳥だけがさえずる静かな街で、最初に明かりが灯るのが、バールです。

出勤したバリスタがまず行うのが、エスプレッソマシンの準備。
それから、ブリオッシュをオーブンに入れます。
バンコ(カウンター)やテーブルを整え、ブリオッシュが焼き上がったところで、いよいよオープン!

澄み切った空気が清々しい朝日で輝き始める頃、次々にお客さんがバールにやってきます。
店内に広がる香ばしいエスプレッソと甘いブリオッシュの香り、蒸気を上げてテキパキとマシンを
操るバリスタ、小気味よくカップを並べていく音、そして元気良く交わされる朝のあいさつ…。

朝のバールは、とても気持ちの良い場所です。
お店に入ってくる時にはまだ眠そうな口数少ないお客さんが、出ていく時にはすっかり元気に
仕事や学校に向かいます。
「いってらっしゃい!」と見送るバリスタにとっても、大きな活力を得られる、一日のスタートです!


バールでの朝食は、カプチーノとブリオッシュが定番!
朝は飛び切り甘いものを食べて目を覚ますのが、イタリア流です。

この「ブリオッシュ」(Brioche)とは、小麦粉、バター、卵、牛乳、酵母でつくる、甘いパンのこと。
フランスからの外来語で、隣接するイタリア北部で特にこう呼ばれていますが、例えば
中部トスカーナ州のように、イタリア語で総称的に「パスタ」と呼ぶ地域もあります。

また、基本的にはクロワッサンのように三日月形をしているので、イタリア中部や南部では、
それを動物の角の形になぞらえて、「コルネット」(Cornetto)と呼ぶ方が一般的です。

しかし実際には、他にも様々な形があります。
三つ編み状の「トレッチャ」(Treccia)、長方形に包んだ形の「ファゴッティーノ」(Fagottino)、
渦巻き状の「ジレッラ」(Girella)、筒状の「カンノーロ」(Cannolo)、丸い「トンダ」(Tonda)など…。

味のバリエーションは、プレーン(Liscia / Vuota)の他、カスタードクリーム(alla crema)、
アプリコット・ジャム(alla marmellata)、チョコレート(al cioccolato)の4種類が、定番中の定番。

変わり種では、リンゴやパイナップルの果実をはさんで焼いたものや、ライスクリーム入り、
レーズン入り、さらにはハチミツ入りの全粒粉製ブリオッシュなどを扱うバールもあります。


多くのバールでは実は冷凍品を仕入れているのですが、オススメは菓子店・パスティッチェリーア
を併設するバール。ここでは、菓子職人自慢の自家製ブリオッシュが並びます。
種類も豊富で、早朝に仕込んだばかりの出来立ては格別です!

いずれにしても、焼き上がったばかりの熱々ブリオッシュが並べば、迷わずそれを頼みましょう。
滅多に巡り合うことのできない幸運の味は、一日中幸せに過ごせる極上の美味しさです!


せっかくイタリアを訪れても、朝食はホテルですませる方が多いのではないでしょうか?
でもそれは、非常にもったいないこと!

ぜひ近くのバールに足を運んでみてください。
活気あるイタリアの日常は、朝のバールから始まるのです。
バリスタの笑顔に見送られて…。今日も良い一日を!ブォナ・ジョルナータ!


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バールの新聞