2013/01/27

魅惑のティラミス

おそらく、世界で最も有名なイタリアのデザートは、ティラミス(Tiramisù)でしょう。

イタリアでも全国的にポピュラーですが、不思議なことに、イタリア地方料理を扱う資料には
ほとんど登場しません。時折ようやく見つけるのは、「ヴェネト州のドルチェ」の記載だけ…。
それもそのはず、調べてみると、その発祥は1960年代。
近年考案された新しいドルチェなのです。

確かに、「地方の伝統菓子」と呼べる要素が少ないことは、その原材料を見ればわかります。
マスカルポーネ(Mascarpone)はロンバルディア州特産のチーズですし、エスプレッソに浸す
ビスケット・サヴォイアルディ(Savoiardi)は、ピエモンテ州、シチリア島、サルデーニャ島など
全国的に幅広い地域で盛んにつくられる、あまり地方色のないお菓子です。

イタリア各地にはティラミスに似たような伝統菓子があり、そこまで遡って関連付けると、
その発祥には様々な説があるようです。
しかし、「ティラミス」という名前で現在のレシピが考案されたのは、多くの料理専門誌によると、
イタリア北東部ヴェネト州・トレヴィーゾの、『ベッケリーエ』(Beccherie)というリストランテ。

「ティーラミ・スー!」(Tirami sù!)、つまり「私を元気づけて!」というフレーズがそのまま名前に
なった、斬新でキャッチーなネーミングと、オーブンなど特別な設備がなくてもつくれる手軽さも
受けて、瞬く間に世界中に広まりました。


いまだ記憶に新しい、日本のティラミス・ブームは、バブル景気全盛の1990年頃のこと。
当時は爆発的な人気を呼び、社会現象ともなったイタメシ・ブームをけん引する主役でした。
どのお店にも行列ができ、生産も追いつかないほどで、ようやく口にした時の今まで味わった
ことのない美味しさには感動したものです。

日本のティラミスは、スポンジ生地をベースにしたようなものでしたが、本場イタリアのものは、
やわらかくなめらかでクリーミーそのもの。

軽くソフトなサヴォイアルディは、たっぷり浸したエスプレッソが滲み出るほどジューシーで、
マスカルポーネと卵黄、砂糖で泡立てたクリームは、なめらかでとろけるような舌触りと、
甘美なコクが口いっぱいに広がります…。

ティラミスを目の前に、その誘惑を断れる人は少ないのでは…?そして一度口にすれば、
誰もが言葉を失い、うっとりと陶酔してしまう魔法が、ティラミスにはあるのです!


食後のデザートとしてリストランテのメニューにはよくあるのですが、バールでは実はどこにでも
おいてあるものではありません。調理で生卵を扱うには、法定設備と認可が必要だからです。

キッチンもないようなバールにもしティラミスがおいてあれば、それは工場生産のものを
仕入れているということ。味はそれほど期待できないでしょう。

コーヒー焙煎所(Torrefazione)と菓子店(Pasticceria)を兼ねているようなバールは理想的。
本当に美味しいティラミスが期待できるといえます。
上質なエスプレッソを淹れるバールの強みを生かせるドルチェだといえますね!

私は職業柄、コックやパティシエの作りたてを味見する機会が多いのですが、
泡立てたばかりの極限になめらかで濃密なクリームは、どんなに美味しいリストランテで
食べるものよりも、さらに百倍美味しいと断言できます。

とにかく、ティラミスは鮮度が命!
ですから、オススメしたいのは、ご家庭で作りたてを食べていただくこと。
とても簡単ですし、レシピは様々なものが出ているので、ぜひ試してみてください。
分量の違いなどもありますが、とにかく丁寧にきめ細かく泡立てるのがコツですよ!


【関連バックナンバー】
アメリカが伝えたイタリア料理
ドルチェの新潮流


2013/01/18

バールで朝食を!

夜明け前、小鳥だけがさえずる静かな街で、最初に明かりが灯るのが、バールです。

出勤したバリスタがまず行うのが、エスプレッソマシンの準備。
それから、ブリオッシュをオーブンに入れます。
バンコ(カウンター)やテーブルを整え、ブリオッシュが焼き上がったところで、いよいよオープン!

澄み切った空気が清々しい朝日で輝き始める頃、次々にお客さんがバールにやってきます。
店内に広がる香ばしいエスプレッソと甘いブリオッシュの香り、蒸気を上げてテキパキとマシンを
操るバリスタ、小気味よくカップを並べていく音、そして元気良く交わされる朝のあいさつ…。

朝のバールは、とても気持ちの良い場所です。
お店に入ってくる時にはまだ眠そうな口数少ないお客さんが、出ていく時にはすっかり元気に
仕事や学校に向かいます。
「いってらっしゃい!」と見送るバリスタにとっても、大きな活力を得られる、一日のスタートです!


バールでの朝食は、カプチーノとブリオッシュが定番!
朝は飛び切り甘いものを食べて目を覚ますのが、イタリア流です。

この「ブリオッシュ」(Brioche)とは、小麦粉、バター、卵、牛乳、酵母でつくる、甘いパンのこと。
フランスからの外来語で、隣接するイタリア北部で特にこう呼ばれていますが、例えば
中部トスカーナ州のように、イタリア語で総称的に「パスタ」と呼ぶ地域もあります。

また、基本的にはクロワッサンのように三日月形をしているので、イタリア中部や南部では、
それを動物の角の形になぞらえて、「コルネット」(Cornetto)と呼ぶ方が一般的です。

しかし実際には、他にも様々な形があります。
三つ編み状の「トレッチャ」(Treccia)、長方形に包んだ形の「ファゴッティーノ」(Fagottino)、
渦巻き状の「ジレッラ」(Girella)、筒状の「カンノーロ」(Cannolo)、丸い「トンダ」(Tonda)など…。

味のバリエーションは、プレーン(Liscia / Vuota)の他、カスタードクリーム(alla crema)、
アプリコット・ジャム(alla marmellata)、チョコレート(al cioccolato)の4種類が、定番中の定番。

変わり種では、リンゴやパイナップルの果実をはさんで焼いたものや、ライスクリーム入り、
レーズン入り、さらにはハチミツ入りの全粒粉製ブリオッシュなどを扱うバールもあります。


多くのバールでは実は冷凍品を仕入れているのですが、オススメは菓子店・パスティッチェリーア
を併設するバール。ここでは、菓子職人自慢の自家製ブリオッシュが並びます。
種類も豊富で、早朝に仕込んだばかりの出来立ては格別です!

いずれにしても、焼き上がったばかりの熱々ブリオッシュが並べば、迷わずそれを頼みましょう。
滅多に巡り合うことのできない幸運の味は、一日中幸せに過ごせる極上の美味しさです!


せっかくイタリアを訪れても、朝食はホテルですませる方が多いのではないでしょうか?
でもそれは、非常にもったいないこと!

ぜひ近くのバールに足を運んでみてください。
活気あるイタリアの日常は、朝のバールから始まるのです。
バリスタの笑顔に見送られて…。今日も良い一日を!ブォナ・ジョルナータ!


【関連バックナンバー】
バールの新聞