いずれも懐かしい、喫茶店の定番メニューですね!
私が幼い頃、つまり昭和50年代、日本で普及していたイタリア料理といえば、数えるほどの
種類しかなく、定番といえばこの3品しかなかったほどでした。
他にもマカロニがありましたが、主にグラタンやサラダなどに使われる程度だったと思います。
イタリア料理の美味しさを最初に伝えたこれら3品は、しかし実は、本場イタリアのものとは
まったく異なるものでした。
まずスパゲティ・ナポリタン。
今でこそ笑い話のようでもありますが、本場ナポリはもとよりイタリア中で食べられていると、
当時は誰もが思っていました。
イタリア料理でケチャップを使うことはあり得ず、ましてやそれをスパゲティにまき散らして
からめるなんて、イタリア人にとっては怖ろしい光景です。
かつてナポリまで捜しに行ったほど大好きだった私には、受け止めがたい現実でしたが…。
続いてスパゲティ・ミートソース。
最も大きな違いは、盛り付け方です。
日本では、皿に盛ったスパゲティの上からミートソースをかけ、いわばパスタとソースが
分離した状態で出されますね。
イタリアではフライパンでよくからめます。「乳化」という料理法上重要な手順は外せません。
イタリアで食べ慣れてから気づきましたが、日本の甘味の強いソースも大きな違いです。
最後にピザ。当時はピザパイとも呼ばれていました。
ピザハウスやデリバリーピザでもお馴染みですね。
生地や素材の違いは言うまでもなく、特筆すべきはタバスコ。
当時の日本では必ずタバスコが添えられて出てきました。
イタリアでは唐辛子漬けのオリーブオイルを使用します。タバスコは外国人観光客向けや、
ブラッディ・マリーというカクテルの材料として置いてあるだけです。
これらに共通したことは、すべて「アメリカ流」だということ。
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19世紀半ばから20世紀初頭にかけて、多くのイタリア人が移民としてアメリカに渡りました。
イタリア人街を形成するほど独自の文化を維持した彼らが、まず持ち込んだのが母国の料理。
その後、それがアメリカ全土に広まる過程で、「アメリカ風」に大きく変容していったのです。
明治以降、主にフランスをルーツとする「洋食」がほぼ直輸入の形で日本に伝わったのに対し、
イタリア料理は戦後上陸したアメリカ文化によってもたらされたものです。
スパゲティ・ナポリタンも、進駐した米軍のメニューが日本で発展していったとされています。
いずれも英語発音のネーミングに、アメリカ由来の名残を見てとることができますね。
ようやく本格的なイタリア料理が広まったのは、1980年代後半のバブル景気の中で起こった
「イタメシ」ブームのとき。
海外旅行者が急増し、本場イタリアで修業したシェフも続々現れた頃です。
当時の熱狂ぶりは大きな社会現象ともなりましたが、本格的なイタリア料理が伝わった
原点ともいえる出来事でした。
本場のイタリア料理の日本での歴史は20年ほどで、まだまだ成熟への過渡期といえます。
私がイタリアの暮らしで思うことは、イタリア料理を最も美味しく味わえる料理法や食事法を
正しい形でまだまだ伝えられるということ。そして、日本に伝えたい料理ももっとたくさんある
ということ。
日本ではまだ知られていない「とっておきの料理」も、今後紹介していきたいと思っています。
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