2012/06/26

カンパリ・オレンジ

カンパリ・オレンジは、日本で最もよく知られたカクテルのひとつ。
イタリアのリキュール・カンパリを、オレンジジュースで割った、ロングドリンクです。
ご家庭でもとてもカンタンにつくることができますし、ビタミンも補える健康的な一杯です。

世界的には、別名「ガリバルディ」という名前でもお馴染みです。
イタリア統一の父、ジュゼッペ・ガリバルディ(Giuseppe Garibaldi)の名を冠したのは、
「イタリアの代表的リキュールを使ったから」という理由だけではありません。

彼の代名詞ともいうべき部隊・赤シャツ隊の「赤」をカンパリの色になぞらえて、赤シャツ隊が
まず上陸したシチリア島がオレンジの一大名産地であることから、その名がつきました。
非常に意味深い、よくできたネーミングだと、つくづく感心させられます。

カンパリ・オレンジのグラスを傾けながら、こうしたイタリアの偉大な歴史に思いを馳せるのも、
また一興…。
いつもの一杯の中に、祖国統一にかけた先人たちの熱狂的な歓声まで、聴こえてくるようです。

Campari Orange "Garibaldi"

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しぼりたてスプレムータ


2012/06/21

イタリアのレトロドリンク・キノット

イタリア独特の炭酸清涼飲料に、「キノット」(Chinotto)があります。
バールやリストランテ、スーパーでもとてもポピュラー。
イタリアを訪れた際には、ぜひ試してみるといいでしょう。

Chinotto

見た目はコーラそのものですが、柑橘系の爽やかな香りと、ほろ苦さが特徴。
それもそのはず、その名も「キノット」と呼ばれるミカンに似たフルーツが原料なのです。

キノットとは、ミカン科シトラス属の希少な一種で、オレンジ色の厚い皮をもつ小さな果実。
イタリア語で「中国」を意味する「チーナ」(Cina)を語源にする通り、16世紀頃に中国から
イタリアに渡ったとされています。
しかし現在では、中国のみならず他のアジア諸国でも栽培されているデータがないため、
そもそも地中海原産だとする研究者もいるようです。
実際、世界でも、生産地はイタリアとフランス南部コート・ダジュールに限られているとのこと。

イタリアでの主な生産地はリグーリア州、カラーブリア州、シチリア州。
中でもリグーリア州サヴォーナ産(Chinotto di Savona)は特に有名で、スローフード協会の、
小規模生産者と伝統製法を守り支援する「プレシディオ」(Presidio)にも指定されています。

しかし、強い酸味と苦味は食用には適さないようで、主にドリンクやシロップの原材料として
使われているとのこと。
青果市場でも訊ねてみましたが、果実はなかなか流通していません。

それに反してキノットのドリンクは、イタリア中どこでも目にします。
1930年代から親しまれているといい、おじいちゃんから子供まで、その幅広い人気にいつも
驚かされます。

ここでひとつ、キノットを美味しく飲むヒント。
グラスにオレンジスライスも入れてもらうよう、頼んでみましょう。
イタリア人の中でも、キノットを飲んで育った年配の方がよく注文される飲み方です。
小さなことでも、実はイタリア人の大きなこだわり。バリスタに頼めば、あなたのことを「通」だと
見なすはずですよ!


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秘蔵ドリンク・スプーマ


2012/06/19

ヒヨコマメのピッツァ

イタリア中部・トスカーナ州には、世界にも名高い、様々な郷土料理があります。
その中でも、山間部のフィレンツェやシエナとは異なる、独自の名物料理を数多く生んでいるのが、
地中海に面した港湾都市・リヴォルノ。
魚介スープ・カッチュッコや、以前にも紹介したリヴォルノ風コーヒーなどは、特に有名です。

私の友人で、フィレンツェの著名なバリスタであるアルマンド・モラーダ氏は、このリヴォルノ出身。
世界的な5つ星ホテルをはじめ多くの有名店で腕をふるってきた彼は、フィレンツェ料理界に
幅広い人脈をもつ、私のトスカーナ郷土料理研究の重要な協力者です。
その彼が、またひとつ、「チェチーナ」(Cecina)というリヴォルノ料理を紹介してくれました。

日本では珍しいヒヨコマメの粉を練った、窯焼きの一品。
トスカーナ州では、「ヒヨコマメのタルト」という意味の「トルタ・ディ・チェチーナ」(Torta di Cecina)
という呼び名もあります。



Cecina

リヴォルノから海岸沿いに約50km北上すると、ヴィアレッジョの町があります。
真冬の派手なカーニヴァルは、イタリア三大カーニヴァルにも数えられ、夏のビーチリゾートと
しても有名なこの町は、アルマンド氏が週末を過ごす場所。
先日、彼とこの町を訪れた際、強い勧めで、あるお店に連れて行ってくれました。

ピッツェリア「リツィエーリ」(Rizieri)
1938年創業の老舗で、ヴィアレッジョ市民に愛されている、町一番の名店だということ。



Pizzeria "Rizieri"

お店に入ると、まず目に入るのが、とても大きな薪窯とピッツァが並ぶカウンター。
70年代から変わらない懐かしさの漂う内装は、長年地元の人々に愛されている証でしょう。

その奥に簡単な食堂も併設していますが、このカウンターに並ぶ切り売りピッツァが名物です。
好きな分だけ切り分けてくれ、量り売りをしてくれるピッツァは、店内のテーブルですぐに食べる
ことができます。
カリッと歯ごたえのある裏地と、ふっくら焼けたもっちりした生地の、コントラストが絶品!

Pizza al taglio

そしてここで、ピッツァに並んで名物のチェチーナを、初めて食べることになりました。

ヒヨコマメの優しい風味と薪のスモーキーな香りが絶妙で、非常にやわらかくデリケートな食感に、
とろけるような幸福感が口いっぱいに広がりました。

チェチーナの原材料はとてもシンプル。ヒヨコマメの粉とオリーブオイル、水、塩だけ。
それらを練った生地を数時間寝かせ、オーブン用の大きな平鍋にのせて薪窯で焼きます。
平鍋が熱せられて生地が焦げる前に、サッと焼き上げるのがポイント。
表面だけがうっすらと香ばしく焼ける程度で、ごく薄い生地はジューシーそのもの!

こちらも、好きな分だけ切り売りしてくれ、カウンターに置いてある黒コショウを好みでかける
ことで、さらに味にメリハリがつきます。

Cecina
チェチーナには、「チンクエ・エ・チンクエ」(Cinque e Cinque)というメニューがあるそうです。
「5&5」という意味ですが、値段50セントのチェチーナを、同50セントのフォカッチャで挟んだもので、
地元では有名な“裏メニュー”。

チェチーナは、リヴォルノ地方の薪窯のあるピッツェリアで見つけることができます。
ファリナータと呼ばれるリグーリア州でも、名物のフォカッチャを焼くお店の定番メニュー。
リストランテでは味わえない、庶民の地方料理の素朴な美味しさをぜひ味わってみてください。

ところで、リヴォルノから海岸沿いに約40km南下したところに、チェーチナという町がありますが、
両者の意味上の関係はありません。
混同しないように、アクセントに気をつけて注文してくださいね!


Pizzeria "Rizieri"
Via C. Battisti, 35/37 Viareggio (LU)
Tel. 0584-962053


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漁師のコーヒー
冬のお祭り・カルネヴァーレ


2012/06/07

サバティーニの伝統

フィレンツェを見下ろす丘の上の町・フィエーゾレ。
ローマ時代の遺跡が点在するこの小さな町は、実はそれ以前のエトルリア時代からの古い歴史を
誇り、その歴史的経緯から「フィレンツェ発祥の地」、「フィレンツェの母」などと謳われています。

フィレンツェからフィエーゾレへと上る坂道には、緑あふれる田園風景が広がり、大きなヴィッラが
並んでいます。いずれも世界の富豪たちの別荘。
超高級別荘地を優雅に抜ける、緩やかな山道からは、レンガ色に広がる美しいフィレンツェの
街並みを望むことができ、その中心にドゥオーモのクーポラがひときわ大きくそびえています。

その丘の中腹に、サン・ドメニコ地区(San Domenico)の町があります。
フィレンツェ・グルメ社交界の顔役、マッシミリアーノ・フェッリ氏が、ここにある一軒のリストランテを
紹介してくれました。


「ピアッティ・エ・ファゴッティ」(Piatti e Fagotti)

オーナーはトンマーゾ・サバティーニ氏。
空手師範であるフェッリ氏と、同じく空手家の同氏は、古いつきあいだといいます。
ランチのやや遅い時間に訪れた私たちでしたが、トンマーゾ氏は大いに歓迎してくれ、
2種類のラザーニャをごちそうしてくれました。

旬であるアーティチョークのラザーニャは、春らしい軽やかな逸品。
もうひとつ、伝統的なトマトベースのラザーニャは、挽き肉ではなく牛肉がそのまま入った
ミートソースが、旨味をさらに引き立てています。


フィレンツェに本店を構える、世界的名店「サバティーニ」(Sabatini)。
東京・銀座にも出店していて、30年以上に渡って日本に本格イタリアンを伝えた老舗として、
ご存じの方も多いのではないでしょうか。
その創業者、ヴィンチェンツォ・サバティーニ氏は、トンマーゾ氏の祖父にあたる方です。

ヴィンチェンツォ氏の息子(トンマーゾ氏の父)が心理学者の道を進んだため、「サバティーニ」の
経営権は1980年に他者に引き継がれています。
そして、再び料理への回帰を志した孫のトンマーゾ氏がリストランテをオープンさせたのが、
ここフィエーゾレのサン・ドメニコ。
フィレンツェの母なるフィエーゾレで、伝統的なフィレンツェ料理を提供しています。

Gastronomia

同店の特徴として、リストランテの入口に、惣菜カウンター・ガストロノミアを併設していることが
挙げられます。
ここでは様々な食材を購入できるほか、各種惣菜をテイクアウトすることもできます。
パニーノもぜひつくってもらいましょう!

ランプレドット(Lampredotto)はオススメ。
日本では「ギアラ」と呼ばれる牛の第4胃袋で、パニーノにはさんで食べるスタイルは、
フィレンツェでしか味わえない定番の伝統料理です。
牛の第2胃袋、いわゆる「ハチノス」の煮込み・トリッパ(Trippa)も用意しています。

パルマ、サン・ダニエーレといったイタリアを代表する生ハムはもちろん、ぜひ試したいのが、
シエナ産黒豚、チンタ・セネーゼの生ハム。
スライサーではなく、手で直接切り分けるので、繊細な風味を存分に味わうことができます。
チーズも、ピエンツァ産ペコリーノ(Pecorino di Pienza)をはじめ、各種揃えてあります。


ガストロノミアでテイクアウトして、オリーブ林の広がるフィエーゾレの田園で食べるのも、
とても気持ちの良いものでしょう。
眼下に広がる“花の都”フィレンツェの、ため息の出るような美しいパノラマが、忘れがたい味の
最後のスパイスです。


Gastronomia - Antico Ristoro "piattiefagotti"
Via delle Fontanelle 3/9/11 San Domenico, Fiesole
http://www.piattiefagotti.com(イタリア語)


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惣菜屋・ガストロノミア活用法


2012/06/02

フェラガモのワイン

サルヴァトーレ・フェラガモといえば、世界的に有名なファッションブランド。
イタリア南部に生まれた彼は、靴職人としてアメリカで名声を得た後、1927年にフィレンツェで
同ブランド店を開業しました。
現在でも、本社と博物館が、フィレンツェ市内のスピーニ・フェローニ宮殿に置かれています。

世界有数の資産家となったフェラガモ家ですが、実は現在、ワイン造りも行っています。
先日、フェラガモ本社のある同じアルノ川沿いのバールで、そのワインを飲む機会がありました。


「イル・ボッロ」(Il Borro)/イル・ボッロ農園(La Tenuta il Borro)
2008年・IGT (Indicazione Geografica Tipica)

やや紫がかった非常に濃い赤色で、味も濃厚。厚みのあるタンニンを強く感じながらも、
バランスの良い深みがあり、コクのある優美な香りの余韻も、いつまでも持続するほど。
以下の4種類のブドウを使用し、2年間熟成(樽18ヶ月+ボトル6ヶ月)を経たワインです。

50% メルロー(Merlot)
35% カベルネ・ソーヴィニョン(Cabernet Sauvignon)
10% シラー(Syrah)
5% プティ・ヴェルド(Petit Verdot)


フィレンツェからアレッツォに向かう街道に広がる、アルノ渓谷(Val d'Arno)。
そのプラトマーニョ山麓に、イル・ボッロ村があります。
数百万年前の古代には、いくつもの大きな湖がこの渓谷全体に広がっていたといい、
その豊潤な水で形成された肥沃な大地が、このワインを育んでいるのです。

1993年、フェラガモ家の依頼を受けたワイン醸造家、ニコロ・ダッフリット氏(Nicolò D'Afflitto)が、
地質調査の結果を踏まえ、イル・ボッロ村に新たなブドウを植える助言をしました。
在来種のサンジョヴェーゼではなく、すべて外来種でつくられた「イル・ボッロ」は、いわゆる
“スーパー・タスカン”ワインとして、すぐに高い評価を受けます。

イル・ボッロ村の中世の小さな町と周辺の広大な土地のすべては、同年にフェラガモ家によって
購入され、アグリトゥーリズモ的な自然滞在型の超高級保養地として大きく変貌しました。
ワイナリーの他、オリーブオイルの生産、キアニーナ牛の飼育なども行われ、リストランテでは
伝統的な土地の食文化をベースにした、洗練された料理を味わうことができるとのこと。


さて、このイル・ボッロ農園では、他の銘柄も生産しています。
100%サンジョヴェーゼの「ポリッセーナ」(Polissena)、75%シラー+25%サンジョヴェーゼの
「ピアン・ディ・ノーヴァ」(Pian di Nova)は、いずれも18ヶ月熟成の赤ワイン。
そして、100%シャルドネの白ワイン、「ラメッレ」(Lamelle)。

世界中で称賛される、フェラガモのモノづくりの伝統を、ぜひワインでもお試しください!
徹底して追求した上質の味を、感じていただけるはずです。


イル・ボッロ・公式サイト(イタリア語・英語)
http://ilborro.it/


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