2012/04/14

洋食ドリアの謎…

幼い頃から大好物だった、ドリア。
バターライスの上にベシャメルソース、チーズ、様々な具材をのせてオーブンで焼いたもので、
シーフードドリア、チキンドリアなどが定番ですね。

その材料や、日本の「洋食」の歴史から、フランス由来の料理だと思っていました。
しかし、某イタリアンチェーン店でも「ミラノ風ドリア」が人気メニューであることから、
ふとイタリア由来の可能性も考えてみたものです。
イタリアはリゾットなどの米料理がポピュラーですし、「ドリア」(Doria)はまさにイタリア語的な
言葉の響き…。


長いイタリア生活のなかで、ドリアのこともすっかり忘れていた頃、ジェノヴァ共和国の
名門貴族・ドーリア家について知ることがありました。
ルネッサンス期に海軍提督として一躍名を馳せたアンドレア・ドーリアを生んだ一族として、
ジェノヴァ人のみならずイタリア人なら誰でも知っている名家です。

ジェノヴァの名門サッカーチーム・サンプドリアの名前にピンときたら、かなりの勘の良さ!
町の西側・サンピエールダレーナ地区(Sampierdarena)の市立スポーツクラブと、
アンドレア・ドーリア提督の名を冠したスポーツクラブの両サッカーチームが、
1946年に合併して「サンプドーリア」(Sampdoria)となったのです。


この「ドーリア」家と、洋食「ドリア」が、こうして頭の中でつながったとき、両者の歴史的関係に
確信を抱きました。
実際に見識あるイタリア人に訊いて回ったところ、料理としてのドリアを知る人は皆無でしたが、
「ジェノヴァのドーリア家に関係しているかもしれない」と、一様に口をそろえるのです。

バターライスやグラタンといったドリアを構成する要素は、いかにもフランス的です。
地中海式農業のジェノヴァには、バターやお米をつかった伝統料理はほとんどありません。
しかし、ジェノヴァには隣接するフランスの影響を受けてきた歴史があり、また、フランス料理界で
ヨーロッパ社交界のドーリア家にちなむ逸話があったとしても、何の不思議もありません。

結論を言えば、ドリアはイタリア語ですが、イタリアのどの地域にもこのような料理はありません。
ジェノヴァにも、そしてミラノにも…。
某チェーン店の「ミラノ風ドリア」は、「(サフラン入り)ミラノ風リゾットのドリア」と名前を変えれば、
誤解はかなり減るでしょう。


日本でのドリアの発祥は、実は非常に明確な資料によって明らかになっていると分かりました。
戦前、横浜ホテルニューグランドの初代総料理長を務めたスイス人シェフ、サリー・ワイル氏
(Saly Weil)が最初につくったとされています。
日本に本格的な西洋料理をもたらした重要人物ですが、ドリアはフランス料理の手法を
用いた創作料理とのこと。やはり、日本で生まれた「洋食」だったんですね。

現在でもホテルニューグランドの名物料理だといいますが、発祥の経緯がこれだけ明らかなのに、
「ドリア」と名づけた理由に触れている文献が見当たらないことが不思議です…。
料理名には必ず由来があるもので、ワイル氏がこれについて何も語っていないとすれば、
きっとフランスにドリアという名の似たような料理があるのでしょう。
私にはフランス料理の知識はないので、それ以上はさらに調べる必要がありますが…。


イタリアではドリアのルーツを見つけることはできませんでしたが、日本の洋食文化の面白さを
あらためて発見し、フランス料理とイタリアの関わりを探る次の楽しみを見出した気がしました。


【関連バックナンバー】
アメリカが伝えたイタリア料理
ミートソースのピッツァ


2 件のコメント:

  1. ありがとうございました。わたしは イギリス在住ですが、日本以外でドリアを見たことがありません。それで、日本独特のもののような気がしていたのです。

    今回、息子に日本の料理を教える際に、日本のものなのか、ヨーロッパのものなのかはっきりさせたかったので、Googleしてみました。よくわかりました。教えることにします。なにせ、おいしいですものね。わたしはフランス料理はよくわかりませんが、ドリアは「ライス グラタン」 ということもできるのではないでしょうか。

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  2. ありがとうございます!ドリア、美味しいですよね。私も小さな頃から大好きでした。
    おっしゃる通り、いわゆる「ライスグラタン」ですね。日本独特の「洋食」は誇るべき文化だと思うので、次世代にも伝わっていくことを願っています。いつかヨーロッパにも逆輸入されれば嬉しいですね!

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