ここに戻ると、必ず飲みたくなるコーヒーがあります。
「ポンチェ・アッラ・リヴォルネーゼ」(Ponce alla Livornese)
アルコールを温めてエスプレッソを注いだものですが、エスプレッソにアルコールを注ぐ
カフェ・コッレットとはまったく別物。
数種類の材料を使うため、作り方で味は大きく変わり、バリスタの腕と個性が問われます!
まず違うのは、専用のグラスを使うこと。エスプレッソ用のものより少し大きい程度。
ここに砂糖、レモンの皮、ゴールド・ラムを入れます。これが“正式な”レシピですが、現在では
さらに同量のコニャックと、アニス酒・サッソリーノ(Sassolino)を少量加えるのが一般的。
これを、エスプレッソマシンの蒸気ノズルを使って、砂糖を溶かしながら温めます。
最後にエスプレッソをゆっくり注いで、出来上がり!
食後の飲み物ですが、冬には身体を温めるためにもよく飲まれます。
Ponce alla Livornese |
ところで、同じくかつて暮らしたマルケ州ファノ(Fano)にも、同様の名物ドリンクがあります。
「モレッタ・ファネーゼ」(Moretta Fanese)
材料も作り方も基本的に同じ。コニャックではなく他の一般的なブランデーが使われ、
アニス酒は地元のヴァルネッリ(Varnelli)に代わるだけ。
ファノは、イタリア半島の東側・アドリア海に面した有数の漁師町です。
水揚げされたばかりの新鮮な魚介をつかった海鮮料理がとても有名ですが、
モレッタはそれ以上にイタリア全国に知れ渡る、町一番の名物。
「漁師が冬の冷たい海風から身体を温めるために飲み始めた」と言われていますが、
真冬のファノで一度飲めば、誰もが納得するはずです。
対してリヴォルノは、イタリア半島西側・ティレニア海の主要な港湾都市。
やはり由来は漁師と結びつけたいところですが、むしろメディチ家支配のトスカーナ大公国を
支える、国際貿易港としての地理的条件があったのかもしれません。
ポンチェの由来は、当時イギリスで流行していた飲み物・パンチ。
インドから製法を持ち帰った有名なアルコールドリンクですが、17-18世紀頃にリヴォルノに
伝わった際、エスプレッソとラムを使った独自のスタイルになったとされています。
中米産のラムやフランスのコニャックが輸入される港だった、と考えることもできるでしょう。
また、リヴォルノ港付近では、ショウガを加えたより強力なレシピがあるそうです。
身も凍る厳しい漁を終え、夜明け前の港に戻った漁師たちが、芯から冷えきった身体を
温めるために考案したのだとか…。やはり漁師に好まれる味なのですね。
いずれにしても、港町で同じものが生まれたことは、偶然の一致ではないはずです。
飲めばわかりますが、冷たい潮風にさらされて飲んでこそ美味しさが増すのであって、
決して乾燥した山あいの町で生まれる味ではない、ということだけは確か。
リヴォルノやファノに立ち寄った際は、ぜひ試してみてください。
バリスタが地元の誇りをかけて作ってくれるはずですよ!
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